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詩歌の森へ

文芸ジャーナリスト・酒井佐忠さんの「詩」に関するコラム。

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生者と死者の交歓=酒井佐忠

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 現代詩文庫の『続・財部鳥子詩集』(思潮社)が出た。財部は、父の任地の中国東北部(旧満州)で育ち、敗戦後の難民生活で父と三歳の妹を亡くし日本に引き揚げた。悲惨な体験が財部の長い詩作の原点になっているのだが、決して生々しさを表現するのではない。歳月を経るとともにむしろ発せられる言葉はみずみずしく、構成は幻想性を帯びていく。詩集「烏有(うゆう)の人」から「氷菓とカンタータ」(高見順賞)まで後期作品を集めた貴重な一巻だ。

 <自分が育った異郷の大江(たいこう)の岸辺で/「おーい」と叫ぶ澄んだ少年の声/あの声は胸の奥底から出ている自分の声だ>と詩人は書く。「氷菓とカンタータ」の中の異例の長編詩「大江のゆくえ-フランクのソナタ・イ長調から」の一節。楽曲の演奏家の真後ろに座った「女詩人」は、楽章の中で何回も「少年の声」を聴く。その声は、逃亡するために髪を切られ「少年」となった七十余年まえの「少女の私」の声と重なる。大陸の…

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