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朗読は天職 「モモ」で1人30役演じた佐久間レイさん

オーディオブック「モモ」の朗読を担当した声優の佐久間レイさん=東京都文京区で2017年8月、岡礼子撮影

 時間どろぼうと、ぬすまれた時間を取り返した女の子の物語--。児童文学の名著「モモ」(ミヒャエル・エンデ著、岩波書店)が今夏、初めてオーディオブックになった。制作したオトバンク(東京都文京区)は、これまでのビジネス書主体からジャンルを広げ、親子で楽しめる児童文学の定期配信としてスタートした。第1弾の「モモ」は、発売3週連続で同社サイトの総合ランキング3位以内に入るなど好評だ。朗読は、「それいけ!アンパンマン」のバタコさんの声などで知られる声優の佐久間レイさん。「描写が美しくて、香り立つようでした。読みながら、いろいろなことに気づきました」と話す佐久間さんに、作品について聞いた。【岡礼子】

「ごっこ」が一番

 --朗読して印象に残ったシーンはありますか。

 佐久間さん 子供たちが海賊ごっこをして遊ぶ場面があるんです。本来のストーリーとは一見関係ないのに、かなりのページ数を割いて描かれます。読みながら、(漫画家の故)やなせたかし先生にいただいた「人生はよろこばせごっこ」という言葉が頭に浮かびました。

 私が落ち込んでいる時に、色紙に書いてくださった言葉なんです。バタコさんの声を長年やらせていただいているので、やなせ先生は、私にとっておじいちゃんのような存在です。意味を尋ねたら、「ごっこが一番」って言われました。

 ごっこ遊びは、想像の翼を使って、なんでもできるし、どこにでも行けますよね。そうやって心を自由に遊ばせることができれば、幸せに生きられると教えてくれたのだと思います。とても大事なことなのに、大人はそれを忘れて生きているんじゃないでしょうか。モモの「海賊ごっこ」の場面にこそ、エンデの言いたいことが込められていると感じました。

 --「時間の花」「どこにもない家」など、「モモ」には、現実にはないものを描いた場面も多いですね。


 それは、モモが一度も見たことがないほど美しい花でした。まるで光り輝く色そのものでできているようです。<中略>こんどの花はさっきのとはまったくちがう花でした。やはりモモの見たことのないような色をしていますが、こんどの色の方がはるかにゆたかで、はなやかな気がします。<「モモ」(岩波少年文庫)>


 佐久間さん 圧倒的な美しさを感じました。行間から「時間の花」が浮かびあがって、香り立つような場面ですね。

佐久間レイさん=東京都文京区で2017年8月、岡礼子撮影

 私は朗読する時、文章から情景を思い描いて、それを言葉にします。モモをやらせてもらって海外旅行に行ったような、得した気分なんです。モモが暮らす円形劇場や町の様子は、本当に絵に描けるくらい鮮明にイメージできています。ただ、私が思う「円形劇場」や「時間の花」と、皆さんのイメージは違うはずですけれど……。

 エンデは、次々と咲いては散っていく時間の花について「さっきのより美しい」と表現して、色などの具体的な描写はしていないの。そこもすてきだと思います。次の花が咲いた時には、前の花は過去なんですよね。今、この瞬間が大事なんだという意味で「さっきよりきれい」という表現をしたのではないでしょうか。

悪役にも、人間らしさを

 --「モモ」には、悪役の灰色の男たちや居酒屋のおやじ、子供たち、町人など、多くの人が登場します。1人何役を演じたのですか。

 佐久間さん 30人くらいでしょうか。なぜか、モモとおかみさん以外は、ほとんど男性なの。おじさん同士がケンカするシーンを読みながら、1人でこんなにたくさんの男性を演じるなんて……と不思議に思っていました。

 灰色の男たちも大勢いるでしょう。「抑揚のない声」などと描かれているので、最初は、ロボットみたいにみんな同じ声でいいかと思ったんです。でも、完全に悪役にしたくないという思いもあったの。ひどいことをしている人も、本人の立場から見れば正義だったり、そこに至るまでの理由があったりすること、ありますよね。

 灰色の男だって、そもそも人間の心が作り出したもので、悲しい「産物」です。消えていくシーンで、ほんの少し人間らしい面を表現したくて、一人一人、ちょっと個性を出してしまったんです。登場するたびに演じ分けることになって、大変でした。

オーディオブック「モモ」=オトバンクが運営する配信サイト「FeBe」の画面より

 この作品は、登場人物によって人格のあらゆる面を表しているんですね。モモは、どこかの国の話ではなくて、自分の内面の話。「どこにもない家」は、自分の外にはないという意味だし、モモを案内するカメが「ミチハ ワタシノナカニアリマス」って言うシーンもある。時間もそうです。だから、灰色の男たちだって、まぎれもなく自分の中にいるんですね。

 --佐久間さんにとって、モモはどんな女の子ですか?

 佐久間さん 私の性格はモモタイプです。世の中の流行が理解できないし、自由奔放なの。読んでいて、同じだと思うことが多くて、「そうそう」と共鳴する感じでした。

 声優さんの多くは、物語を読み込んで、きっちり役作りをされると思いますが、私は練習しないの。直前にさーっと読むくらい。吹き替えの時に、自分一人で「こんな感じでやろう」と思っていると、全体の中で、ちょっとニュアンスが違ってしまう時があるんです。絵を見て、みんなの声を聞きながら、どんなふうにやろうかなと考えた方が、自然に声がはまるんです。

 モモは1人で読みましたが、やり方は同じです。何が書かれているのか、きっちり分かった上で読むのではなく、聞いている人と一緒に、途中で気づきながら物語の世界をひろげていく感じ。それで良かったかなと思っています。

 --読み聞かせなどで、うまく読むコツはありますか。

佐久間レイさん=東京都文京区で2017年8月、岡礼子撮影

 佐久間さん 私が一番大事にしているのは、イメージすることです。読み手が、内容を鮮明に思い描いていれば、聞いた人も、頭の中で映像に戻せると思うんです。お母さんたちと読み聞かせをする時も、「状況を想像してみて」と言います。イントネーションや「てにをは」なんて違ったっていいの。ホットケーキのお話なら、色やにおい、ふわふわしたところを想像しながら「まあるいホットケーキが焼けました」と言ってみて。それだけで声が変わりますから。

 私はこの仕事を30年くらいやっているので、読みながらホログラムが浮かびます。天職だと思っているの。なぜなら、疲れないから。時間がたつのに気づかず読み続けて、時計を見てびっくりすることもあります。毎日何時間も練習するスポーツ選手や音楽家も、大変な苦労だと思われがちですけど、時間はぱっと過ぎるんじゃないでしょうか。そんな時間の感じ方も、モモにたくさん描かれています。時間って、時計で計るものではないんですよね。

 --「モモ」を、誰に聞いてほしいですか。

 佐久間さん お勧めしたいのは、一度手にとって、断念してしまった人。私も少し読んだだけで本棚にしまってありました。この際、耳で聞くことにチャレンジしてほしい。本は、分からないところがあると止まりますけど、オーディオブックは進んでいくので、自分で読むより楽ですよ。

 モモの話は、とにかく現代の風刺ね。時間を預けて、無駄なことを省いていくと、いつか利子がついて返ってきて、ゆったり暮らせるなんて……。その時が来る頃には、ゆったりすることなんて忘れてしまいますよ。お金も同じ。備えは大切だけど、「将来」が来てみたら、「使い道は、良い老人ホームに入ることだけ」なんてことになっているかもしれない。ちょっと考えないといけないな。人生の間に何回か出会たらいいと思う物語ですね。

 --オーディオブックは13時間。長くて、ちゅうちょしてしまいます。

 佐久間さん 1回で聞くのはもちろん無理です。私の声は、聞いていると眠くなるんですって。13時間、眠らずに聞ける人がいたらお会いしたいくらい。夜眠れないなら、お酒や睡眠薬の代わりにしてください。

 実は、野望があるの。「モモ」のようなオーディオブックを、病院で聞けるようにしたいんです。寂しい時間、天井ばかりみて考えこんでしまう時間、そんな時に聞いて、つらさを少しでも軽減できたらうれしい。目を使うと疲れますが、耳なら負担が少ないかもしれない。どこまで聞いたかわからなくなっても、寝ちゃってもいい。朝まで聞いてしまったとしても、痛みにもんもんとしているよりいいじゃない。


 さくま・れい 東京都生まれ。声優、歌手。作詞なども手がける。代表作はアニメ「アンパンマン」のバタコさん、宮崎駿監督の映画「魔女の宅急便」のジジ、「ムーミン」のミイほか多数。シングルマザーで一人娘を育て、現在は、生き方や子育てをテーマに、歌、朗読劇を交えた講演会を全国で開催している。オーディオブックの朗読は「星の王子さま」に続き、「モモ」が2作目。


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