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「おひとりファースト」の時代へ~ミドルおひとり女子が創る、大独身マーケット

第4回 「ひとりでよかった!」は、おひとり様のやせ我慢?=マーケティングライター・牛窪恵

 この半年、30人以上のミドルおひとり女子、すなわち40、50代のおひとり様女性に、徹底的に取材してきた。さまざまなタイプの女性がいたが、ひとつだけ、ほぼ全員に共通していたことがある。

     それは、大半が20、30代のころ、いわゆる「だめんず(駄目な男)」と思しき男性たちに苦い目に遭わされていたこと。

     にもかかわらず、彼女たちは何事にも驚くほど前向きだ。いまも「私はやれる」「まだ成長できる」など、いい意味で「根拠なき自信」をもち、「ひとりはラク」「ひとりでよかった!」と実感していた。

     一方で、世間からはこんな声も聞こえてくる。「『ひとりでよかった!』は、おひとり様のやせ我慢じゃないの?」……本当のところはどうか。いま果たして、幸せなのか。

    写真はイメージ=iStock

     40歳を機に新築マンションを買った契約社員のソノミさん(41)は、入居して半年以上経つのにまだカーテンを買わず、「模造紙」をカーテン代わりにかけている。驚いて「なぜ?」と聞くと、こう答えた。

    「だって、お気に入りのカーテンがなかなか見つからないから」

     また、通販会社のコールセンターで働くマコさん(43)は、いまのシェルフ(飾り棚)に出合うまで、インテリアショップを20軒以上めぐったという。

    「シェルフ一つで、部屋の風景がグンと変わるから。私、男にもシェルフにも、一切妥協したくないんです」

     既婚者は、「なぜたかだかカーテンやシェルフに、そこまでこだわるの?」と思うかもしれない。正直言って、私もそう思う。だが彼女たちミドルおひとり様の多くは、何についても妥協し たくない。いいかげんなモノで間に合わせるなら、なくていい。

     マコさんは、自虐ぎみに笑う。「分かりますよね。妥協しないからこそ、いまもまだひとりなんですよ」。失礼ながら、確かにそうかもしれない。

     だめんずにハマった過去から、「もう男には頼れない」と悟ったおひとり様も、少なくない。いまから頼れるのは、自分自身。「体こそ資本」との思いも強いから、食事もいい加減には済ませたくない、健康に作用する一品が欲しい、と考える。

     そこでハマるのが、梅干しや漬物、あるいは発酵食品やくん製作りといった、あえて手間ひまかける手作りメニューだ。

     東京都内のIT企業で働くチアキさん(50)は、数年前に過労で体を壊した。以来、「これじゃいけない」と梅干しや漬物を漬け始め、いまは母親から分けてもらったぬか床で「マイぬか漬け」にハマっている。

    「仕事でつらいことがあっても、ぬかを混ぜているだけでホッと落ち着く。つまらない年下クンに貢ぐより、『彼(ぬか)』を世話するほうが有意義でしょ」

     また、理想の男性と同様、料理の「見た目」にこだわるおひとり様も多い。

    「手抜きって感じは、絶対にイヤ。たとえSNSに投稿しなくても、『インスタ映え』しそうな華やかな食卓を演出して、『今日も頑張ったな、私』って気分をアゲたいんです」(マコさん)

    働くおひとり様には「時短」より「時コン」?

     そんなミドルおひとり女子のわがままに応える食品も、次々と登場している。たとえば、フランス生まれの冷凍食品(冷食)ブランド「ピカール(Picard)」。

     母体は、フランスのPicard Surgelés SAS 社による冷食専門のスーパーマーケットだが、日本でも近年、大手流通のイオンと提携して首都圏のスーパーに専門売り場を設けたほか、昨秋、東京・青山にも初の単独店舗をオープンし、話題を呼んだ。

     一般の食品メーカーの冷食より多少値は張るが、食材を厳選し、合成着色料や保存料を使わないなど、おいしさと「安心」「安全」が最大の売り。見た目も華やかで、まさに「おひとり様好き」する冷食メニューが、豊富にそろう。

    「われわれは、一般の冷凍食品が想起させる『手抜き』や『時短(簡便化)』ではなく、ライフスタイルに合わせて、みずから『時間コントロール』できるバリューを伝えたいと考えました」

     そう話すのは、日本でピカールを展開するイオンサヴールの代表取締役社長・小野倫子さん。たとえるなら、「時短」より「時コン(時間コントロール)」とでも言ったところか。

     一例が、青山のピカールの店で一番人気の「クロワッサン」。家庭の冷凍庫に常備しておけば、朝オーブンで焼くだけで、香ばしい香りや食べた時のパリパリ感、リッチなバター風味を味わえる。

     とはいえ、朝忙しい時間にわざわざオーブンで焼くとなれば、決して「時短」とは言えない。では、これと似て非なる「時コン」とは……?

     小野社長いわく、「たとえトータルの時間はかかっても、その間にシャワーを浴びたり他の料理を作ったり、オーブンに放置したままいろんなことができる。その便利さと快適さが、時間をコントロールできる醍醐味(だいごみ)でもあるでしょう」とのこと。

     なるほど。そういえば、ミドルおひとり様の中心層は、現40代半ば~50代後半の「バブル世代」。彼女たちは若いころから、当時の流行語だった「アッシー、メッシー、ミツグくん」、すなわち、足代わりに送り迎えし、ご飯(メシ)をごちそうしてくれ、プレゼントを貢いでくれるような男性を求めていた。

     そして彼らに、「あそこのご飯(食事)が食べたいな」などとねだったものだ。悪い言い方をすれば、甘い口調で男性たちをコントロールしていたと言えよう。

     そんな彼女たちからすれば、時間をコントロールできる「時コン」は、確かに結構心地いいはず。ひとたびその醍醐味に気づけば、病みつきになるに違いない。

     家電でも、「時コン」をかなえる商品が、ミドルおひとり女子の注目を浴びている。その代表が、なんといってもロボット掃除機「ルンバ」だろう。

     ご存じのとおり、ルンバはみずから部屋の状況を判断し、直線的に、時にはくるくると動きながら進み、床のチリやホコリを奇麗に回収してくれる。疲れて帰ったとき、あるいは夜寝る前や朝出掛ける前でも、ルンバに「よろしくね」と託してしまえば、ストレスフリー。

     スイッチさえ押せば、あとは「彼(ルンバ)」に丸投げできる。「近所迷惑だから、夜9時までに掃除しないと」など、時間に縛られなくていいわけだ。

     ルンバの販売や保守をおこなう日本法人・アイロボットジャパンのマーケティング部・金子理恵さんによると、「弊社の調査では、ミドルおひとり様も含め、ルンバに何らかの名前を付けているユーザーが決して少なくないことが分かっています」とのこと。

     私が取材したユリエさん(48)も、その一人。動き出すときに「ピー」と可愛く音を立てて鳴るルンバを「ピーちゃん」と名づけて寵愛(ちょうあい)。ピーちゃんが下に潜り込んで掃除しやすいようにと、ソファやテーブルを買い換えていた。

     いや、それどころではない。それまで住んでいた賃貸マンションは古く、リビングに毛羽立ったじゅうたんが敷かれていたこともあり、なんと「ピーちゃんのために」と、2000万円以上する中古マンションを「即買い」していたのだ。

    「何にも気兼ねせず、好きな相手に貢げるって、ある意味で“快感”。男性には懲り懲りだけど、ピーちゃんは絶対に裏切らないから」(ユリエさん)。

     紆余(うよ)曲折を経て、「やっぱり、いまがいい」と悟った、ミドルおひとり女子。「ひとりでよかった!」は、決してやせ我慢ではないようだ。

    牛窪恵

    世代・トレンド評論家。マーケティングライター。インフィニティ代表取締役。同志社大学・創造経済研究センター「ビッグデータ解析研究会」部員。現在、立教大学大学院(MBA)通学中。 オフィシャルブログ:アメーバ公式ブログ「牛窪恵の「気分はバブリ~♪」」(http://ameblo.jp/megumi-ushikubo/
    財務省 財政制度等審議会専門委員、内閣府「経済財政諮問会議」政策コメンテーターほか、官庁関係の要職多数。
    1968年東京生まれ。日大芸術学部 映画学科(脚本)卒業後、大手出版社に入社。フリーライターを経て、2001年4月、マーケティングを中心に行う有限会社インフィニティを設立。
    トレンド、マーケティング関連の著書多数。「おひとりさま(マーケット)」(05年)、「草食系(男子)」(09年)は、新語・流行語大賞に最終ノミネート。テレビコメンテーターとしても活躍中。
    【代表作】
    『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(日本経済新聞社)
    『独身王子に聞け!』(日本経済新聞社)
    『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』(講談社)
    『「バブル女」という日本の資産』(世界文化社)
    『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
    『「男損(だんそん)」の時代』(潮出版社)
    『「おひとりウーマン」消費! 巨大市場を支配する40・50代パワー』(毎日新聞出版)ほか多数

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