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柴田元幸さん

村上春樹に追いついてきた--最新米文学の魅力を聞く

柴田元幸さん=画星充写す

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  ◇自分自身の底に、沈み込んで書く

 米文学者の柴田元幸さんによるインタビュー集『ナイン・インタビューズ 柴田元幸と9人の作家たち』(アルク)が刊行された。ポール・オースターやリチャード・パワーズ、レベッカ・ブラウンら、柴田さん自身が翻訳を手がける現代アメリカ作家らが、新作の話題や「小説の作法」などを語っている。翻訳者だから聞けた濃い内容だ。現代米文学の魅力を、柴田さんに聞いた。【木村知勇】

 『ナイン・インタビューズ』には、オースターの妻シリ・ハストヴェット、T・R・ピアソン、スチュアート・ダイベック、カズオ・イシグロ、『マウス』でピュリツァー賞を受賞した漫画家のアート・スピーゲルマンも登場。左ページに英語の原文、右ページに柴田さんの対訳という体裁で、付属のCDにはインタビューの模様が収められており、作家らの肉声を聞くことができる。

 柴田さんが「個人的に大好きな作家たちで、もう一度やっても同じメンバーだと思う」というラインアップの最後を飾るのが、村上春樹だ。「雑誌『ニューヨーカー』にも日常的に作品が掲載され、『日本を知りたいから』という理由で読まれているわけでない。現代米国作家インタビュー集に入れて当然でしょう」と柴田さんは語る。

 その村上春樹へのインタビューで、柴田さんは「今の米文学が村上文学に追いついてきた」と指摘している。どういうことなのか。

 「80年代後半から90年代にかけての米文学は、なにげない日常を切りとり人生の真実を描くといった、レイモンド・カーヴァー風リアリズム小説の亜流があふれ返っていた。その息苦しさの中で、『自分自身の底』に降りてみて、寓話(ぐうわ)的小説を書く作家たちが登場した」

 今回のインタビューで取り上げられている作家も、この新しいタイプといえる。

 「共通しているのは、例えばカーヴァーの『おれは貧乏白人を書くんだ』といったような、何かの共同体への帰属意識がないこと。オースターは『父と子』というユダヤの中心テーマを多く書いているが、別に彼はユダヤを代弁しているわけではない」

 「かつて村上さんが(オウム事件や阪神大震災以前に)『自分には書かねばならないものは何もない』というようなことを言っていたけれど、同じように、彼らも『これを書けば小説になる』という安心感を持てない人たちだと思う。祖父母や親から受け継いだ話を書いても小説にならない。じゃあ、どう書くか。共同体への帰属意識がないからこそ、自分自身の深いところに沈み込んでいって書くしかないんです。これは村上文学と同じ。そして、おそらくそうして書かれたものだけが人を動かす力を得る」

 こうした流れは、レベッカ・ブラウンやケリー・リンクら、戦後のテレビ文化で育った女性作家を中心に、さらに新しい文学の形を生み出しているという。「彼女たちの『無意識』という部分には、テレビ番組の主人公などポップカルチャーがある。子供のころ見たものの妄想を、そのまま膨らませた小説が登場している。僕も、自分の底には『おそ松くん』や『ナショナルキッド』などがあるから、よく理解できる」

 『ナイン・インタビューズ』の取材は、ほとんどが9・11同時多発テロ事件の前に行われた。米国では、例えばドン・デリーロら代表的作家らの「9・11」に対する発言が、「あまりの非現実感に言葉を失う」といった平板さと画一性で失望を買っているという。

 柴田さんは「『制度や規範』としての物語がいかにウソで、間違っているかの実例を示すのが小説であると、僕は思う。そういう意味では、『9・11』そのものが小説で、アメリカという物語の批判となっている」と指摘した上で、「作家たちが、そうした小説的事件をさらに小説化できるまでには、10年か20年かかるのではないか」と語った。


 ■人物略歴

しばた・もとゆき

 東大文学部教授(英米文学)。1954年東京生まれ。著書に『アメリカ文学のレッスン』『生半可な學者』(講談社エッセイ賞)など。村上春樹氏との共著で『翻訳夜話』ほか。訳書も『幽霊たち』『ムーン・パレス』『リヴァイアサン』(ともにポール・オースター著)など多数。

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