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ネバー・レット・ミー・ゴー=藤原章生

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 英国を代表する長崎生まれの作家、カズオ・イシグロ氏の新作「ネバー・レット・ミー・ゴー」(05年、未邦訳)は、イギリスの隔離施設で育てられたクローン人間の女性の手記という形をとるSF小説だ。

 温室培養されるクローンの少年少女たちは、大人になると臓器を提供するドナーと、その介護役を担わされる。淡々と介護をこなす語り手の女性は、ドナーになる親友の男女と共に自分たちのあり方を、探偵ごっこのような興味本位と真剣さで見いだしていく。

 だが、真相を知った彼らが過去のSF小説のように当局に抵抗することはない。自分は物ではない、人だと、創造的な絵を描き続ける男友達も、4度の臓器摘出を受け「これでいいんだ」と死んでいく。主人公も何一つ愚痴をこぼさず、友人の死を恨むこともなく、海の底の砂粒のように運命を受け入れる。

 作家はクローン問題を誘い水に、現代人のひとつの個のあり方を描いたように思う。それは、革命や反乱、政治活動で自らの状況を打破できるという考えに背を向けているように映る。

 確かに見渡せば、自分の身の丈にとどまり、静かに生きようという個人が世界に広がっているように思える。映画化もされた「日の名残り」(89年)もそうだが、イシグロ作品の主人公は自分の置かれた境遇から大きく脱皮しようとしない。数年前の東京での講演で「作家になり来日した途端、ああ、ここは自分の国ではない、自分は英国人なんだと初めて気づいた」と話していた。英国的なのか、日本的なのか、作品には古風な静けさが漂う。(夕刊編集部)

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