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カズオ・イシグロさん

話題作『わたしを離さないで』が映画化、日本公開を前に来日

インタビューに答える作家のカズオ・イシグロさん=東京都港区で2011年1月25日、久保玲撮影

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幸せな記憶は「武器」になる

 長崎生まれの英国人作家カズオ・イシグロさんが、自身の小説をもとにした英国映画の日本公開を前に、10年ぶりに来日した。映画化されたのは2006年出版の話題作『わたしを離さないで』(土屋政雄訳、早川書房)。同名のタイトルで、日本では3月26日から上映される。英ブッカー賞を受賞した『日の名残り』や最新短編集『夜想曲集』など、静かな語り口で胸を揺さぶる作品を発表してきた56歳の世界的作家に、創作の背景などを聞いた。【佐藤由紀】

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 『わたしを離さないで』の主人公キャシーは子供の頃、特殊な施設で育った。今は病院で「提供者」と呼ばれる人々を介護している。施設仲間と再会した彼女は、昔のことを回想しはじめた。実は、施設にいた子供たちは他人を生かすために“作られた”存在で……。

 作品の背景には生命科学の進歩がある。だが、そこで考えたかったのは、医療の倫理よりも、限りある人生という普遍的な問題だったという。

 「人生は、普通に考えられているほど長くありません。作品中の若者たちは悲しい運命を背負っていたが、人生の意味を見つけ、何が大事かを考えて実行しようとした。友情を取り戻すことかもしれないし、手遅れになる前に謝ることかもしれない。短いからこそ、優先したいものが見えてくる」

 映画については「予想を超える出来栄え」と評価する。特にキャシー役の英女優キャリー・マリガンを「わずかな表情で深い内面を表していた。高峰秀子や原節子を思わせる」と絶賛した。

 イシグロさんは5歳のとき、海洋学者の父の仕事の関係で、家族とともに渡英。そこで教育を受けた。両親とも日本人だが、82年に英国籍を取った。母親と日本語で話すことはあるが、一貫して英語で執筆してきた。

 その作品では「遠い記憶」がしばしば重要な役割を果たす。「初めて小説(『遠い山なみの光』)を書いたのは、消えかかっていた5歳までの長崎での記憶を書き留めておきたい、という衝動からでした。だから、記憶は私にとって、書くことと密接に関係しています。何をどう記憶し、どう語るのか。記憶によって、自己がいかに形成されるのか。そのことにずっと関心を持ってきました」

 ただ、『わたしを離さないで』の中の記憶は、他の作品とは別の機能を持つ。「死と戦う武器ということです。キャシーは友人や恋人らをすべて失うが、記憶だけは誰にも奪われなかった。彼女を最後まで支えたのが、幸せな記憶です。記憶があれば、死に対して、ある部分では勝ったといえると思う」

 一方、自身にとっての偉大な現代作家は「3M」といい、ガルシア・マルケスさん(コロンビア)、村上春樹さん、コーマック・マッカーシーさん(米国)の3人を挙げた。

 「村上さんは現実と微妙に違う『もうひとつの世界』を描きながら、読む人に親近感を抱かせる稀有(けう)な才能を持っています。驚くのは、世界のどこへ行っても村上さんの作品がよく読まれていること。英国でも翻訳文学は人気がないのに、唯一の例外が村上さんです。世界の人々は日本に関心があるからではなく、村上さんを身近に感じるから読んでいる」

 最近は、自身も日本出身であることを特別視されないという。「日本の経済は90年代から停滞しているといわれますが、私は逆に日本の文化が世界の主流に溶け込んだ時代だったと思う。欧米の若者もポケモンで育ち、東欧ではすしレストランが新しさの象徴になった。日本生まれかどうかがあまり意識されなくなったのは、日本への見方が変わったからかもしれません」

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