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高齢者お助け「防災ラジオ」

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災害時に緊急放送に臨んだFMはなびの福原尚虎さん=秋田県大仙市で8月28日、山本康介撮影 拡大
災害時に緊急放送に臨んだFMはなびの福原尚虎さん=秋田県大仙市で8月28日、山本康介撮影
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大仙市が運用している防災ラジオ=大仙市提供 拡大
大仙市が運用している防災ラジオ=大仙市提供
大雨の影響で冠水した大仙市=7月24日午前8時53分、本社機「希望」から 拡大
大雨の影響で冠水した大仙市=7月24日午前8時53分、本社機「希望」から

 災害時に自治体が出す避難勧告などの情報を流す「防災ラジオ」が普及しつつある。コミュニティー放送局が自治体から得た情報を発信し、家庭などに設置された専用のラジオから音声が流れる仕組み。特に「情報難民」になる可能性がある高齢者世帯に有効だとされる。

 ●自動で電源オン

 「こちらFMはなび。緊急の避難指示が発表されています。対象地域にお住まいの人は、直ちに安全な場所や避難所に移動してください」

 7月22日夜から翌23日にかけ、秋田県内は各地で大雨に見舞われた。秋田市雄和では降り始めからの雨量が約350ミリに達し、7月の平均降水量の1・7倍を記録した。県内を南北に流れる雄物川中流部が氾濫。大仙市は一時、県内で最大となる約2万人に避難指示を出した。

 市内にあるコミュニティーラジオ局「FMはなび」は、雨脚が強まり始めた22日午後9時ごろから、避難情報の放送を開始。避難の対象地域や避難先の施設名を伝えた。オンエアは約60回に及んだ。3人態勢で丸一日、マイクを通して住民に伝え続けた。

 昨年1月、FMはなびは市との間で災害時の情報を流す協定を結んでいたが、緊急放送はこの時が初めて。アナウンサーの福原尚虎さん(49)は「気持ちを落ち着かせ、聞き取りやすい放送を心がけた」と振り返る。

 防災ラジオの特徴は、災害情報が流される際は、電源がオフになっていても自治体やラジオ局からの信号受信によって自動でオンになることだ。平常時は一般のラジオとして使用でき、緊急事態が発生すると、大音量で通常の放送に割り込む。ACアダプターと乾電池を電源としており、停電時でも情報を把握できるメリットは大きい。

 ●大仙市、無償貸与

 防災ラジオは通常1万円以上。高価格が普及のネックになると予想されたため、大仙市は昨年9月、高齢者や要介護者がいる世帯などに防災ラジオ約5200台の無償貸与を始めた。

 総務省地域放送推進室の担当者は「避難情報の伝達には防災行政無線や携帯電話のメールなどもあるが、大雨時などは無線の音が聞きづらいことがある。また高齢者には携帯の操作が苦手な方が多いので、防災ラジオは貴重な手段と考えています」と語る。

 高齢の母のために市からラジオが配布されたという同市南外地区の男性(62)は、自宅は避難指示の対象地域にはならなかったが「夜中にラジオが自動で起動し、何度も避難情報が流れていた。避難指示が出された地名などがクリアに聞こえた」と振り返る。

 市内では住宅の全壊や床上浸水などが約850棟出たが、死傷者はゼロだった。市の担当者は「防災ラジオが作動し、就寝中でも気付いた住民もいます。もちろん市職員などが巡回して知らせた点も(死傷者ゼロに)大きく役立ったと思います」と話した。消防団員が高齢者をゴムボートに乗せて避難所に連れて行くなど、地域と市が連携する形での「防災力」も奏功した。

 総務省によると、今年9月1日時点で全国47都道府県に309局のコミュニティーFMが開局している。昨年11月の調査では、269局が自治体と災害協定を締結し、このうち90局が自動起動の防災ラジオを使用している。

 ●英語で放送も

 だが「情報弱者」は高齢者だけではない。

 世界中のスキー愛好家が集まることで知られる北海道ニセコ町では、防災ラジオの英語でのアナウンス体制整備を進めている。

 町には142世帯224人の外国人が居住(8月末時点)、冬季になるとさらに外国からの観光客が増加する。町は防災ラジオを転入者や別荘所有者などに無償で貸与。コミュニティーFM「ラジオニセコ」と連携している。

 英語でのアナウンスを担当するのは、海外からの4人の国際交流員だ。実際の運用はまだないが、緊急時に駆け付け、原稿を手にマイクに向かう。町の担当者は「観光客も含め、生命を守るのは行政の役割」と力を込める。

 また、防災ラジオを搭載した自動販売機も出始めた。

 沖縄県北谷町などで「FMニライ」を放送する「クレスト」(池原稔社長)は、自社製のラジオ付き自販機を県内28カ所に設置。三重県鈴鹿市で「鈴鹿ヴォイスFM」を放送する「鈴鹿メディアパーク」(加藤正彦社長)は清涼飲料メーカーと提携しラジオ付き自販機を開発した。いずれも防災行政無線が聞こえにくい地域や観光客に情報を届けることが目的だ。

 最近では全国瞬時警報システム(Jアラート)と防災ラジオを連動させている自治体もある。総務省の担当者は「システムなどのメンテナンスを怠らず、正確な運用を心掛けてほしい」と呼びかけている。【山本康介、松本紫帆】

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