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名作の現場

第31回 芥川龍之介『歯車』 案内人・島田雅彦(その1)

 芥川龍之介の遺稿『歯車』は、死を待つ精神状態を映す。作中に登場する東京・日本橋の書店「丸善」を作家の島田雅彦さんが訪ね、芥川晩年の代表作を読み解く。

僕に深まる不安と憂鬱

 知人の結婚披露宴出席のため、避暑地から東京へ向かう列車に「僕」は乗る。駅へ向かう自動車中でレエン・コオトを着た幽霊の話を聞くところから、「僕」の目は不吉な細部にばかり向けられ、それが奇妙な想念に結実し、不安と憂鬱は深まってゆく。レエン・コオトそれ自体が幽霊のようにたびたび「僕」の視線の先に出現し、ホテルで執筆中に、義兄がレエン・コオトを着て鉄道自殺をしたという知らせを受けることになる。「僕」はまた半透明の歯車を幻視している。それは視野を塞ぐほどに数を増し、やがて消えるが、今度は頭痛に襲われる。その幻覚は何処(どこ)にいても、「僕」を苛(さいな)む。常人ならば、気にも止めずに見過ごすありふれた光景さえも狂気や死の連想を助長してしまう。一連のイメージは日常的な脈絡や意味を剥ぎ取られ、おのが妄想とのみ噛(か)み合い、一貫性を持ち、「僕」をよってたかって迫害するのである。

 『歯車』には動物のイメージが頻出する。披露宴で肉を食べている時にウジを幻視し、Wormという単語を…

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