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「必死すぎるネコ」ひたすら寄り添う写真家・沖昌之さん

=「必死すぎるネコ」より(c)Masayuki Oki

 「ほんと、よう働くなあ。みんな偉いなあ」。東京の下町、カメラを手にした長身の男性に、猫が向こうから近づいてくる。このほど、写真集「必死すぎるネコ」(辰巳出版)を出版した沖昌之さん(39)。けんかしたり、隙間(すきま)をのぞいたり、壁に飛びついたり--野良猫たちが夢中になっている瞬間を切り取った作品が人気で、インスタグラムのフォロワーは7万6000人を超える。「もともとはネガティブ思考で面倒くさがり。何もしたくない人間だったんです」。そんな男を、猫とカメラが変えてしまった。【岡本同世】

カメラに出会って、街に出た

 神戸市で生まれ育ち、事務機器の営業職などを経て30代前半で上京。最初の転機は、2009年に働き始めたアパレルの会社で訪れた。本格的な撮影経験はなかったが、社長から、商品や人物を撮るよう指示され、カメラを渡された。当初は「写真が下手。センスがない。何にもしない」と怒られ通し。「でも時々ハマると、いい写真が撮れた」

沖さんが猫を撮るきっかけになった「ぶさにゃん先輩。」=「必死すぎるネコ」より(c)Masayuki Oki

 次第に面白くなり、自腹でカメラを購入。それまで寝て過ごしていた休日にも、出かけて撮影を楽しむようになった。13年暮れの午後、休憩中に公園で見かけた1匹に衝撃を受ける。「ぶさいくで、かわいくて、自由だった」。それから、猫を撮りはじめた。

 これも社長命令がきっかけで始めたインスタグラムに、14年1月から猫の写真を投稿。毎日欠かさず、2、3カットずつ公開している。フォロワーの反応が「答え合わせ」でもあるという。「自信作でも反響が薄く、あれ?という時がある。もっと表現を磨かなくちゃ」

僕は「シャッター係」

撮影の合間に、猫の首の後ろをかいてやる沖昌之さん

 「努力と挑戦、継続の大切さを教わった」アパレル会社だったが、15年4月に退社。写真に専念するためかと思えば、「考えてなかったです。魔が差したっていうか……」。ずっこけるような答え。「でも辞めたから腹がくくれた。これ一本でやっていくんだと」

 お世話になった人たちに心配をかけまいと、ブログやSNSでの発信は続けた。名刺には「猫フォトグラファー」と入れた。翌月に参加したグループ展がきっかけで、ネット上の沖さんの写真に目をとめていた編集者から連絡があり、同年12月には新潮社から初の写真集「ぶさにゃん」を出版。「猫がチャンスをくれる。僕はシャッターを押す記録係」

「寄り添う才能」と「瞬間に出くわす力」

 そんな姿勢は、写真からにじみ出る。「必死すぎるネコ」のデザインを担当した山下リサさんは言う。「撮るものに対するリスペクトが大きい写真家ほど、良い写真を撮れる」。木村伊兵衛写真賞を受賞した梅佳代さんの「うめめ」や、荒木経惟さんの「無情」「彼岸にて」など、数多くの作品を手がけるデザイナーだ。

糸井重里さんが帯文を寄せた写真集「必死すぎるネコ」の表紙。糸井さんは、自身のツイッターでも「猫もすごいが、撮った人もすごい。猫人一体!」と投稿している=(c)Masayuki Oki

 沖さんが撮りためた数万カットを、1週間かけて見ていく中で感じた。「猫たちはかわいいし、すごく笑えるんです。でも、それだけじゃない。生と死が隣り合わせの環境で、必死で生きることの美しさ。なんとなく日々を過ごしている人間へのメッセージになるんじゃないかな」。沖さんとSNSを通じてつながった糸井重里さんも、「この猫(ヒト)たちに弟子入りしたい」と帯に言葉を寄せた。

 山下さんは「ひたすら寄り添う才能」と「瞬間に出くわす力」を沖さんの作品に見る。では、本人はどう考えるのか。「シャッターチャンス? 待つっていうか、ずーっと一緒にいる感じ。撮ってる時間より、なでてる時間の方が長いかもしれない」。週4、5日は撮影に出かけ、丸一日を費やすことも。そうなってくると、猫は仕事仲間か。「むしろ上司。向こうが上です」

猫写真家の野望

 どこまでも謙虚な沖さんだが“野望”もある。「僕の写真を、誰かが『これ面白くない?』『めっちゃ面白い』って見てくれて、楽しい時間を作るのに一役買えたら幸せ。それが世界に広がってくれたら、さらにうれしい」。海外での撮影や出版にも挑戦したいという。

 話しながら歩くうち、猫の集会場に出た。皆のんびりしていて、「決定的瞬間」が訪れる気配はない。きょうは必死じゃないみたいですね……。思わずつぶやくと、沖さん、初めてむっとした様子を見せた。「何言ってるんですか。いてくれるだけですごいことなんですよ」。猫たちへのリスペクトは、予想を上回っていた。

必死で撮影する沖さん。見守る猫たち

重版決定 展示も次々

 「必死すぎるネコ」は1200円(税別)。発売から2週間で1万部を突破。ネット書店、実店舗で売り切れが相次ぎ、重版が決定した。各地で展示も企画されている。13~22日には、「ほぼ日」の「TOBICHI2」(東京都港区南青山)で写真展を開催、21日には作家、浅生鴨さんとのトークショーも行う。詳細は、沖さんのツイッター https://twitter.com/okirakuoki などに掲載。

プロフィル

 おき・まさゆき。1978年生まれ。雑誌「猫びより」(辰巳出版)で写真集と同名の「必死すぎるネコ」を連載中。インスタグラムのアカウントはokirakuoki

=「必死すぎるネコ」より(c)Masayuki Oki

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