メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『ランニング・ワイルド』『私説 大阪テレビコメディ史』ほか

今週の新刊

◆『ランニング・ワイルド』堂場瞬一・著(文藝春秋/税別1700円)

 長距離の走り、カヤック、自転車などを組み合わせ、チェックポイントを通過する「アドベンチャーレース」。最高に過酷なこのレースに、警視庁の「チームP」4人が参戦した。場所は瀬戸内の七つの島を結ぶ「とびしま海道」だ。

 ところが直前、キャップの和倉が受け取ったのは、家族を人質に、あるブツを回収せよという犯人の脅迫電話だった。堂場瞬一『ランニング・ワイルド』は、タイムリミット24時間の息詰まるレースとミッションを描く。

 和倉にとって、レースに勝ち、同時に家族を守るための戦いが課せられた。紅一点の安奈は、すぐに和倉の異変に気づく。ペースを壊すレース展開、くり返す判断ミス。チームの空気はぎすぎすし、不安と不満が渦巻き始める。

 著者はレースの刻一刻を追いながら、和倉の孤独とチームの大切さを浮かび上がらせる。「仲間が後ろから背中を押してくれる」という安奈の実感が、輝けるゴールに立証されるのだ。

◆『私説 大阪テレビコメディ史 花登筐と芦屋雁之助』澤田隆治・著(筑摩書房/税別2200円)

 テレビ史に残る高視聴率を叩(たた)き出した「てなもんや三度笠」ほか、関西のテレビ草創期にディレクターとして君臨したのが澤田隆治。『私説 大阪テレビコメディ史』は、花登筐(はなとこばこ)と芦屋雁之助という二人のキーパーソンを主軸に、上方演芸史を回想する。

 資料の少ないテレビ・ラジオ芸能で、著者は抜群の記憶力と、豊富な資料を駆使し、正確な記述による「正史」を試みる。カラー化の準備も進み、絶好調の真っただ中で、「てなもんや三度笠」が突然終了した真相など、初めて知る貴重な話が満載である。

 のち「細うで繁盛記」など、ど根性ドラマで人気を得る花登筐が、「劇団・笑いの王国」を結成。知名度を上げるため、雁之助、小雁、大村崑の合同結婚式を挙行し、しかもテレビで放送するあたり、この忘れられかけている巨匠の存在感を再認識させられた。

 各種図版、特別鼎談(ていだん)、詳細な芦屋雁之助年表と、隅々まで著者の「上方芸能」愛が充満している。

◆『昭和の男』半藤一利・阿川佐和子/著(東京書籍/税別1400円)

 半藤一利と阿川佐和子が、これぞ『昭和の男』8人を選び、論じ合う。鈴木貫太郎、今村均、松本清張を半藤が、ヴォーリズ、植木等、小倉昌男を阿川が選び、また両名とも自分の父親を加えている。鈴木は、太平洋戦争時の総理大臣として戦争終結に尽力した「昭和を救った男」。植木は、真面目だけじゃダメと「戦後の空気を変えた一人」と評価する。家庭では娘に「緊張」を強いた阿川弘之は、半藤に「阿川佐和子の父ですと言うと皆わかるんだよ」とボヤいていた、などのいい話もあり。

◆『ねじの回転』ヘンリー・ジェイムズ/著(新潮文庫/税別490円)

 ヘンリー・ジェイムズ『ねじの回転』を小川高義が新訳。初出は1898年の心理小説にしてゴシック・ホラーの先駆。不思議なタイトルは「ひどい状況下で、なおさら無理を強いる」というイギリスの成句。ヴィクトリア朝、ロンドン郊外の古い屋敷に、若い娘が家庭教師で雇われた。そこには幼くして両親を失った美しく幼い兄妹がいて、彼らの魂を奪おうとする幽霊が出没する。ただし、他の人は目撃したことがない。物語と時間は精緻に組み合わさり、読者をこの世のものではない世界へ誘う名作。

◆『十五歳の戦争』西村京太郎・著(集英社新書/税別760円)

 1930年生まれの西村京太郎は、45年4月にエリート将校養成機関「東京陸軍幼年学校」に入学。「本土決戦になったら、楯(たて)になれ」と命じられ、敗戦までの4カ月半、死を覚悟して生きた。すでに負けを知っていた8月15日、玉音放送を聞いて「東條のバカヤロー」と叫んだ。しかし、ひどい目に遭いながらもアメリカに「敵愾(てきがい)心がわかなかった」。飢餓、闇市、そして恋……32歳で作家デビュー。日本人はなぜ戦争に向いていないかなど、『十五歳の戦争』で初めて明かされる作家の本音と実像。

-----

岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』など

<サンデー毎日 2017年10月22日号より>

おすすめ記事

毎日新聞のアカウント

話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. 差別発言の長谷川豊氏、公認取り消しも 維新・松井代表が検討指示
  2. 全政府統計の6割強不適切 プログラムミス、ルール違反、公表遅延など
  3. 元フジアナの長谷川豊氏が差別発言 参院選擁立予定の維新は処分検討
  4. 歌手の田口淳之介容疑者と女優の小嶺麗奈容疑者を逮捕 自宅で大麻所持の疑い
  5. サラリーマン川柳 サラリーマン川柳、今年の1位発表 「五時過ぎた カモンベイビー USAばらし」

編集部のオススメ記事

のマークについて

毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです