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三枝成彰:オペラ・ブッファ「狂おしき真夏の一日」初演

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インタビューに応える三枝成彰
インタビューに応える三枝成彰

【三枝成彰:オペラ・ブッファ「狂おしき真夏の一日」~「フィガロの結婚~または狂おしき一日」「ばらの騎士」へのオマージュ~初演】

 作曲家の三枝成彰氏が10月27日、新作オペラを初演する。作家・林真理子氏の書き下ろし台本によるオペラ・ブッファ「狂おしき真夏の一日~〝フィガロの結婚、または狂おしき一日〟〝ばらの騎士〟へのオマージュ」で、演出をAKB48のプロデュースなどでも活躍する作詞家の秋元康氏、舞台美術を千住博氏、演奏は大友直人指揮、新日本フィルハーモニー交響楽団が担当。公演は27、28、29、31日の4回、東京文化会館で開催される。初の喜劇に挑んだ三枝氏に新作オペラの聴きどころ、見どころを聞いた。(宮嶋 極)

新作オペラのスコアの表紙 拡大
新作オペラのスコアの表紙

 三枝氏の新作オペラ「狂おしき真夏の一日」の題名に、オペラ・ファンはすぐにモーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」を連想するはずだ。それはロレンツォ・ダ・ポンテが台本を手掛けた「フィガロ」の副題が「狂おしき一日」であるから。また、三枝氏の新作も「フィガロ」と同じくオペラ・ブッファ、つまり喜劇的なオペラであり、同氏にとってはオペラ8作目にして初めて取り組む喜劇でもある。

 「ぼくは今年75歳、(悲劇的なオペラの巨匠であった)ヴェルディが最後に作った〝ファルスタッフ〟にならって、自分にとっても最後の(大きな)オペラは喜劇にしたかった。5年前に林さんに台本をお願いし、3~4年前に書き上げていただきました。林さんは喜劇で終わりたいという私の望みに応えて、少しエッチで女性らしい大らかさのある艶笑譚(えんしょうたん)に仕上げてくれました」

 物語は鎌倉に住む浮気癖のある男性医師・大石恭一(大島幾雄)の一家を舞台に展開していく。大石は度重なる浮気が原因で、妻・陽子(佐藤しのぶ)との関係は冷え切っている。同居する長男・太郎(ジョン・健・ヌッツォ)の事実婚のフランス人妻、フランシーヌ(小川里美)にひそかに思いを寄せる大石。同性愛者の次男(大山大輔)も絡んで洒脱(しゃだつ)な大人の恋愛劇が繰り広げられ、最後は「ファルスタッフ」のように九重唱によって愛の素晴らしさを軽妙に歌い上げる。

 ある部分は「フィガロ」のようであり、また、大人の恋愛劇であるリヒャルト・シュトラウスの「ばらの騎士」をほうふつとさせる箇所があったりもする。そして幕切れは「ファルスタッフ」と同じく、すべてを皆で笑い飛ばして明るく締めくくる。

 「調性を明確にしている箇所も多くあるので、たくさんの方に楽しんでいただけるはずです。その一方でオーケストレーションはさまざまな要素を盛り込んであり、今の自分のすべてをつぎ込んだといっても過言ではありません。また、西洋音楽のリズム感と日本語が必ずしもマッチしない点もあり、字幕も付ける予定です」

 幕切れの九重唱はリズミカルで生命感にあふれており、とても聴きやすい曲なのだが、譜面を見ると驚かされる。小節ごとに目まぐるしくテンポや拍子などが変化し、まるでストラヴィンスキーの後期の作品のように一見シンプルだが、実はとても複雑な作りになっているからだ。この複雑な変化が独特の躍動感を生み出しているのである。難しいものをやさしく、そして楽しく聴かせる。三枝氏の円熟の手腕を実感させてくれる箇所といえるだろう。

 演出は異なるジャンルで活躍する秋元氏。もちろんオペラ初挑戦である。三枝氏はその意図を「オペラ専門の演出家に頼むとどうしても真面目なものになってしまう。とにかくハチャメチャな喜劇にしたかったので、秋元さんにお願いしたところ〝ああ、そうですね〟と二つ返事でオーケーしてくれたんですね。後悔していたみたいですけど(笑い)……。ですから、オペラだからといって堅苦しいものではなく、ミュージカルよりも笑える抱腹絶倒のエンタテインメントになっています」

 三枝氏はオペラを作曲し制作・上演することをライフワークと位置付け、それを実現するために自ら代表取締役を務める音楽事務所「メイ・コーポレーション」(本社、東京・六本木)を運営してきた。

「最近分かったことなのですが、オペラ制作のためにこの20年間で約60億円も費やしてきたのです。驚きました。ぼくの最初のオペラは藤沢市民オペラからの委嘱でしたが、公的なお金で制作すると、一度議会で承認されたものは台本の〝てにをは〟ですら直せなくなってしまうのです。それ以降、(公的な)委嘱オペラは受けないことにし、自分で資金を調達して上演してきました。今回、その会社も整理して背水の陣で臨むことにしたのです」

 まさに三枝氏のオペラ創作活動の総決算ともいうべき新作初演ではあるが、その表情には悲壮感はなく、自らがオペラそのものとその創作過程を楽しんでいるかのようであった。

公演データ

【三枝成彰:オペラ・ブッファ「狂おしき真夏の一日」~「フィガロの結婚」「ばらの騎士」へのオマージュ~初演】

10月27日(金)18:30/28日(土)14:00/29日(日)14:00/31日(火)18:30

東京文化会館大ホール

 

作曲:三枝 成彰

台本:林 真理子

 

指揮:大友 直人

演出:秋元 康

美術:千住 博

コレペティトゥートル:森島英子

ドラマトゥルク:田尾下哲

衣装コーディネーター:斎藤牧里

舞台監督:山田ゆか(ザ・スタッフ)

 

大石恭一:大島幾雄

大石陽子:佐藤しのぶ

大石太郎:ジョン・健・ヌッツォ

フランシーヌ:小川里美

大石次郎:大山大輔

ユウキ:村松稔之

エミコ:小林沙羅

フミエ:坂本朱

リサ:小村知帆

 

エレクトーン:清水のりこ

合唱:六本木男声合唱団ZIG-ZAG

管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

 

公式ホームページ http://www.saegusa-s.co.jp/con171027-31.html

 

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ)スポーツニッポン新聞社勤務の傍ら音楽ジャーナリストとして活動。スポニチ紙面、ウェブにおける取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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