連載

段ちゃんの「知っておきたい!中国のコト」

タレントの段文凝(だん・ぶんぎょう)さんが生まれ育った中国と大好きな日本について綴ります。

連載一覧

段ちゃんの「知っておきたい!中国のコト」

第5回 元留学生が“着物文化”を発信! 中国で高まる着物ブーム=段文凝

  • ブックマーク
  • メール
  • 印刷

 紅葉が美しい季節になりましたね。朝晩もひんやりとしてきて、そろそろ冬の足音も聞こえてきそうです。日本を訪れる観光客にとって、こうした四季の移ろいを味わうことは、旅の大きな目的の一つ。そして、季節ごとに違った装いが楽しめる着物にも、近年注目が集まっています。

 今回は「知っておきたい!中国のコト」第4回でご紹介した着物レンタルショップ「江戸和装工房 雅(みやび)」で、経営戦略の立案や実施を手掛けてきた営業本部 市場開発部長の孫為楽(そん・いらく)さんにお話を伺います。孫さんは、2008年に中国の福建省から来日した元留学生。日本の大学で経営学を学び、このお店に就職しました。孫さんはなぜ着物に興味を持ったのでしょうか。以下、私と孫さんのやりとりです。

 ―――どうして着物に関心を持ったのですか?

 最初はブームとして関心を持ちました。15年ごろ、日本で中国人観光客がたくさん買い物をするいわゆる“爆買い”ブームが起きました。しばらくするとそのブームが落ち着き、今度は、日本でしかできない文化体験をしたい人が増えました。時期を同じくして、中国人観光客のビザの要件が緩和され、富裕層だけでなく、中間層も日本観光を楽しめるようになりました。今後市場が拡大していく可能性が大いにあり、チャンスだと思ったのです。そこで、何か身近に楽しめる日本らしい文化はないかと考え、最初は茶道や生け花に注目しました。しかし、いずれも場所や時間が限られるという難点がありました。そこでもっと個人的に楽しめる文化はないかと考え、行きついたのが“着物を着てもらう”ということだったのです。

 着物にはさまざまな種類があり、それぞれに違った趣があります。季節に合わせた柄や色も豊富です。最近では若者を中心に、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)や写真投稿アプリなどが人気です。奇麗な着物を着て、写真を投稿することで、友達から多くの反応がもらえます。また、本場の日本で着物を着ることで気分が高まりますし、着物を着て街を歩くと他の観光客や、地元の日本人に「一緒に写真を撮って」とお願いされることもあって、コミュニケーションが生まれます。こうした様々な体験ができるのが、着物を着るメリットだと思います。

日本の“おもてなし”に感動 ありのままの日本を感じてほしい

 ―――そもそも、孫さんはなぜ中国ではなく、日本で就職されたのですか?

 きっかけは、日本の“おもてなし”に興味を持ったことです。例えば、学生時代、日本のあるホテルのサービスを知って感銘を受けました。そこのホテルではお客様が「何が好きか」「どの新聞や雑誌を読むのか」などの個人情報を把握していて、次にお客様が来たときに先回りして、そのお客様好みの対応をしていたのです。泊れば泊まるほど、宿泊費以上の価値のサービスを受けられるのです。このように、日本のサービス業のレベルは世界最先端だと思います。ですから自分でもこうしたサービスを提供するビジネスをしてみたいと思いました。

 多くの中国人は、日本に来る前に、日本に対して歴史的な問題からマイナスの印象を持っていることが多いです。しかし、私が“おもてなし”に出会って感銘を受けたように、日本に来てその印象が一気に変わる人も多いのです。

 ―――孫さん自身もそうだったのですか?

 私もテレビなどで日中戦争のドラマなどを見ていましたから、日本に来る前は「日本人はなんて残酷なのだろう」と思っていました。でも日本に来てみたら、日本人の皆さんは、平和が大好きだったのです。これで印象が一気に変わりました。弊社にお問い合わせをされるお客様からも、予約のときに「日本ってどんなところ?」「日本人は怖くない?」と尋ねられることがあります。そんな時、私たちは正直に「本やテレビなどのイメージとまったく違います。平和が好きで真面目な人たちです。だから心配せずに日本に来てください」と伝えています。実際に来日したお客さんに「どうですか?」と聞くと、皆さん「本当だった」とおっしゃってくれます。

「江戸和装工房 雅(みやび)」で日本の文化を伝える孫為楽さん
「江戸和装工房 雅(みやび)」で日本の文化を伝える孫為楽さん

コミュニケーションから意識が変わる

 ―――孫さんがお仕事をする上で、一番大切にしていることはどんなことですか。

 私はどんなサービスでもコミュニケーションが一番大事だと思っています。コミュニケーションすることで、お客様のニーズを理解することができます。また、お客様に情報をいただくことで、私たちもそのお客様に合ったサービスが提供できるのです。

 ―――“着物を着る”ということも、一つのコミュニケーションですよね。

 そうですね。実はこのお店をオープンさせたばかりのとき、日本人の着付けの先生が全然見つからず困っていました。着付けの先生は通常、教室などで日本人の生徒さんを教えているので、わざわざ言葉も文化も違う中国人に教えるのが怖かったのでしょう。でも私は「日本も中国も文化に対して同じ心を持っています。今の日本の若者も、着物を着る機会が少なくなりました。だから、観光客に着物を着てもらうことで、日本の着物という文化をどんどん発信していきたいのです。だから協力してください」と先生方を説得しました。そうしたら、徐々に協力してくれる先生方が増えてきました。「観光客と触れ合うことや、外国人が着物を着て楽しそうにしているのを見るとうれしい。日本の文化をそこまで愛してくれて」とおっしゃる方もいます。

 ―――先生方の意識も変わったのですね。

 はい。最初は3人しか先生がいなかったのに、今は30人近くいます。弊社は、適当に着付けをしません。日本の伝統的な着付けをお客様にしています。これは先生方がいるからこそできると思っています。

 先生方も長年着付けの仕事をされてきて、着物を愛しているからこそ、本物にこだわり、外国人が着物を着てくれることにやりがいを感じているのです。ただ仕事をするだけではなく、日本の文化、着物の文化を世界発信しようとしているのです。

 ――この着付けを通じて、いろんな人の意識が変わってきていますね。

 それがすごくうれしいのです。みんなが意識を変えてくれることが。先生たちも最初は抵抗があったみたいですけれども、今では積極的に仕事をしてくれています。日本人も中国人もお互い意識が変わってくれてすごくうれしいです。

大切なのは「相手を喜ばせたい」という気持ち

 今回孫さんにお会いして改めて気づいたことがあります。それは、人は国籍が違っても、言葉が通じなくても、相手が笑顔になるのを見れば、自分も笑顔になれるのだということ。自分がその相手を「喜ばせたい」と強く思い、行動すれば、相手も喜んでくれるのです。

 私は最近、日本に来た中国の友達にあることを頼まれました。彼女は「買い物はもういいので、できれば生け花か茶道の体験がしてみたい」というのです。私は急いでレッスンが受けられる場所を探して、その友達を連れて行きました。日本語は話せませんが、彼女は心からそのレッスンを楽しみ、私に感謝の気持ちを伝えてくれました。きっと彼女に生け花や茶道のレッスンをしてくれた先生方も、笑顔だったに違いありません。

 私が友達をレッスンに連れて行ったのは、私が知っている日本のすばらしさを、もっと多くの中国人に伝え日本の事を理解してもらいたかったからです。私は、相手に踏み込み関わることを怖がらなければ、たとえ言葉が分からなくても心が通じ合う瞬間が必ずあると信じています。私も、目の前の“あなた”に笑顔になってもらえるように、これからも私の本当の気持ちを、あなたに伝え続けます。

浅草寺の境内でパシャリ。あなたも着物を着てお散歩してみませんか?
浅草寺の境内でパシャリ。あなたも着物を着てお散歩してみませんか?

あわせて読みたい

この記事の特集・連載
すべて見る
この記事の筆者
すべて見る

注目の特集