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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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良寛さんの歌にこんなのがある…

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 良寛(りょうかん)さんの歌にこんなのがある。「あは雪の中にたちたる三千大千世界(みちあふち) またその中にあは雪ぞ降る」。あは雪は春の淡雪(あわゆき)、三千大千世界は仏教の言葉で、世界を千倍し、さらに千倍、また千倍した大宇宙をいう▲春の雪が降ってくる空を見上げると、やがて大宇宙があらわれてくる。その宇宙をじっと見つめると中に淡雪が降っているではないか……。広大無辺の宇宙と、はかない淡雪が入れ子のように入り組んだ壮大にして繊細な幻影である▲およそ物の尺度など相対的だと説く仏教の宇宙観だ。ケシ粒一つに世界が入るという禅問答もあるが、この宇宙には角砂糖1粒分の大きさ当たり10億トンという星もあるそうだ。そんな高密度の中性子星の衝突・合体を観測したという▲地球から1億3000万光年のかなた、太陽より少し重い二つの中性子星の衝突が分かったのは、その際に放出された重力波を捕捉したからだ。すぐに世界中の天文台などが追加観測したところ、光やエックス線などでも観測された▲今年のノーベル物理学賞に選ばれた重力波の観測がさっそく生み出した天文学上の画期的な成果である。この一連の観測により、金やプラチナといった重い元素が中性子星の合体から生まれてきた可能性の高いことも分かったという▲今までのような光などの観測だけでは分からない宇宙の秘密を明かしてくれる「時空のさざ波」--重力波である。これからの人類が仰ぐ空にはどんな「三千大千世界」がたちあらわれてくるのだろう。

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