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南海トラフ津波被害を推定

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 政府は11月、近い将来起きると言われる南海トラフ巨大地震について、発生から30分以内に津波被害を推定する新システムを試験稼働させる。効率的な初動対応ができるよう、どこにどの程度の被害が出るかを地震発生直後に予想する研究が大学などで進んでいるが、新システムは画期的な技術とされ、来年度の本格運用を目指している。

 ●スパコンを活用

 巨大地震が発生した時、すぐに効果的な応急対策を行うために重要なのが、被害の全容を早く把握することだ。しかし、2011年3月の東日本大震災では、通信手段が途絶えたり、自治体庁舎や勤務中の職員が被災したりして行政機能が著しく低下。市町村による被害状況の把握や、その情報を得ても国に報告できない状況に陥った。被害が大きく、救援が必要な自治体ほど顕著だった。孤立状態の市町村を政府がなかなか把握できない事態も生じ、救援が遅れるケースが出た。

 この問題を解決しようと、東北大と大阪大、NECなどは共同で「津波浸水被害推定システム」を開発した。両大学が持つNEC製のスーパーコンピューター「SX-ACE」を用い、住宅の全壊棟数などを市町村別に自動推計する。

 仕組みはこうだ。地震が発生するとまず、関東から九州の沖合の海底に延びる南海トラフのどこで断層が動き、津波を発生させるか、その領域(津波波源域)を推計する。震源のほか、地殻変動のデータから推計した地震の規模などを用いる。

 さらに、津波波源域から津波がどのように陸に伝わるかを計算。地震の影響を受ける静岡・伊豆半島から、鹿児島・大隅半島まで、沿岸の浸水の開始時刻や範囲、深さを推計する。その結果を基に、東日本大震災の被災地調査結果などを基に構築した、浸水と建物被害の関係を表した「津波被害関数」から各地の状況を求める。被害の程度に応じてモニター上の地図に色分け表示することにしている。

 ●初動対応を的確に

 この新システムは既にある内閣府の「総合防災情報システム」に組み込まれる。現在、大雨や洪水なども含めた災害発生時、各地の被災状況を網羅的に把握し、モニター上の地図に表示して関係機関が初動対応に利用している。地震に関しては「地震被害推計システム」が組み込まれ、発生直後に気象庁が観測した震度の情報などを基に建物の全壊棟数を自動推計できるが、津波の被害は計算する機能がなかった。内閣府の担当者は「南海トラフで巨大地震が起こると、津波被害は広域にわたる。特に被害が大きい地域が即座に分かれば、どこを重点的に救援すべきか、的確に判断できるようになる」と期待している。

 津波被害推定の新システムを高度化する作業は続いている。開発プロジェクトの責任者で、東北大災害科学国際研究所の越村(こしむら)俊一教授らが今年度着手したのは、「災害医療支援システム」の構築だ。医療機関が受ける津波などの被害を短時間で推計。それぞれの医療機関がある地域の状況から、けがをした人数など医療ニーズを検討し、効果的な救援に役立てる。越村教授は「東日本大震災では、通常の診療体制が維持できていれば救えたと考えられる命が多数あった。被害把握の技術を高め、こうした命を少しでも多く守りたい」と話す。

 地震被害推計システムの向上も進んでいる。防災科学技術研究所(茨城県つくば市)が取り組んでいるのは、震度と地盤の固さ、建物の種類や棟数、人口などのデータを基にした「リアルタイム被害推定システム」だ。16年4月の熊本地震では既に利用された。罹災(りさい)証明書発行のための現地調査の際、あらかじめおおよその状況をこのシステムで把握し、被害が大きい地域から作業を始めるなど効率化に役立った。内閣府の担当者は「来年度までに次期総合防災情報システムの開発を目指している。取り入れられる技術は取り入れたい」と話している。【飯田和樹】

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