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華恵の本と私の物語

/15 夜のピクニック

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 消灯時間しょうとうじかんの15分前ふんまえ廊下ろうかにクラスの女子じょしたちがあつまり、なかにはわたしとミサがいた。かいの部屋へやから、男子だんしたちも遠慮えんりょがちにかおをのぞかせている。6年生最後ねんせいさいご移動教室いどうきょうしつだ。

     新田にったくんと田村たむらくんをまえに、深呼吸しんこきゅうをする。さきくちひらいたのは、ミサ。

     「新田にったきです。わたしとつきってください!」

     キャーッと女子じょし歓声かんせいがあがる。ヒューヒュー、と男子だんしかおしてう。ミサのけた小麦色こむぎいろかおが、ほんのりあかくなっている。新田にったくんは、ただでさえおおきなをさらにひらいて、しっかりミサをた。

     「ぼ、ぼくもきです。よろしくおねがいします」

     ミサのかおくずれた。うれしさできそうになっている。よかったね、とつたえると、ミサはうなずいた。

     いよいよわたしのばんだ。ミサが成功せいこうしたのだから、きっとだいじょうぶ。

     ぼさぼさあたま田村たむらくんは、いつものねむそうなで、居心地悪いごこちわるそうにしたいている。

     「田村たむら……きです。つきってください!」

     わたしはあたまげた。ワーッと、またしてもみんながもりあがる。おそおそかおをあげると、

     「……きって、どういうことかな」

     田村たむらくんは、あたまをかきながらう。

     え? どういうこと?

     「ハナエはともだちだよ。でも、きとか、よくわからないんだよ。おれら小学生しょうがくせいじゃん。つきあうって、なにをすればいいの?」

     ちょっとまってよ……なんでそんなことうの。なんで空気くうきめないの。はずかしい!

     「ばっかじゃないの、これからも仲良なかよくしてくれれば、それでいいの!」

     どなってしまった。

     「わかった……これからもよろしくね」

     田村たむらくんのは「ごめん」とっているようだった。

      + + + +

     かれとおりでした。告白こくはくしたところでなにをしたいのか、当時とうじのわたしにはまったくわかっていなかったのです。移動教室いどうきょうしつという非日常ひにちじょうなかで、おものこしたくて、あこがれの「カレシ」をつくりたくなったのだとおもいます。

     『よるのピクニック』では、高校生こうこうせいたちが夜通よどおあるく「歩行祭ほこうさい」という行事ぎょうじえがかれています。受験じゅけんひかえた高校生こうこうせいたちは、だれかの秘密ひみつをあばいたり、告白こくはくをしたり、ずっとになっていたひとはなしをしたり。そわそわしながら、日常にちじょうではあじわえないよるごします。

     おもは、あまくても、にがくても、つくっておいたほうがたのしい。

     わたしが田村たむらくんに告白こくはくしたことにも、後悔こうかいはありません。むしろ、勇気ゆうきしぼって、みんなのまえはじをかいた自分じぶんが、いまとなってはおかしくもありながら、ちょっとほこらしくおもえるのです。


    よるのピクニック』

    恩田陸おんだりくちょ

    新潮文庫しんちょうぶんこ 767えん


     エッセイストの華恵はなえさんが、ほんにまつわるおもきなほん紹介しょうかいします

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