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SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『守教』『昭和と師弟愛』ほか

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今週の新刊

◆『守教』帚木蓬生(新潮社/上・下各税別1600円)

 布教のため来日したフランシスコ・ザビエル以来、戦国期から開国まで、約300年にわたるキリスト教の受容と受難の歴史があった。帚木蓬生(ははきぎほうせい)『守教』は、農民たちが慟哭(どうこく)する姿を上下巻で描く。

 日田の信徒・右馬助はアルメイダ修道士から捨て子を貰(もら)い受け、米助と名付け養子とした。高橋村の庄屋となった右馬助は、久米蔵と名を改めた子に「小さいながらデウスの王国」を作る夢を託した。信仰は九州の農村に、代々、深く浸透していくのだった。

 しかし、宣教師の追放令と禁教令以後、凄(すさ)まじい弾圧が始まった。過酷な責めと殉教にも、初めて歓喜と幸福を授かった信仰を彼らは捨てない。「体はどげん絞めつけられても、胸の内だけは自分のものですけん」と、潜行しつつ開国まで教えが守られた。

 密告や転びよりも死を選ぶ。一生を牛馬のごとく働きながら、なお気高く、尊いものを守り続ける隠れキリシタンたちの姿に、最後、大きな感動を覚えるのだ。

◆『昭和と師弟愛 植木等と歩いた43年』小松政夫(KADOKAWA/税別1400円)

 植木等と小松政夫を描いたNHKの連続ドラマ「植木等とのぼせもん」がこのたび終了した。『昭和と師弟愛』は、その書籍版ともいうべき一冊。

 東京オリンピック開幕の1964年に、超売れっ子だった植木等の運転手兼付き人となったのが、博多出身の松崎雅臣(のちの小松)だ。父親を早く失った松崎青年に、植木は「これからは俺を父親と思えばいい」と言った。

 「シャボン玉ホリデー」をはじめ、「無責任」シリーズなどの映画出演と多忙を極める師の働きぶりと素顔が、詳細に伝えられる。私生活の植木はダンディーで、ハンサムでお洒落(しゃれ)。酒は一滴も飲まない、いい父親であった。松崎青年は、やがて小松政夫の名を得て、舞台に上り始めると人気者に……。

 高度成長と芸能界の全盛がシンクロしていることが、この本でよくわかる。「植木等さん 日本に笑いと元気を、ありがとうございました」という結びの言葉は、そのまま私の感想でもある。

◆『安藤忠雄』松葉一清監修・著(平凡社/税別2400円)

 東京都港区六本木の国立新美術館で「安藤忠雄展 挑戦」が開催中(12月18日まで)。別冊太陽の松葉一清監修『安藤忠雄』の副題も「挑戦する建築家」。元プロボクサーで、建築は独学という異色の建築家は、名を高めた初期建築「住吉の長屋」をはじめ、たしかに既成を打ち破り「挑戦」し続けてきた。本書は美しいカラー図版を交え、数々の傑作、そして闘いの軌跡を追う。巻末には監修者による安藤忠雄論、「安藤忠雄プロジェクトリスト」を写真付きで掲載する。

◆『人形は指をさす』ダニエル・コール/著(集英社文庫/税別1100円)

 ダニエル・コール(田口俊樹訳)『人形は指をさす』は、デビュー作ながらドラマ化も決定している話題作。世界中の注目を浴びる裁判がロンドンで始まった。被告人はなんと、27日間に27人の少女を焼死させた。しかし彼は無罪に。逮捕した刑事ウルフは、評決に納得できず、被告に飛びかかり大騒ぎとなる。これがプロローグというから、なんとも「前代未聞のこの派手さ」(訳者あとがき)。物語は4年後、さらに陰惨な事件を用意し、ウルフを翻弄(ほんろう)する。秋の夜長におすすめです。

◆『トラクターの世界史』藤原辰史・著(中公新書/税別860円)

 藤原辰史『トラクターの世界史』は、アメリカで19世紀末に発明されたトラクターから、20世紀の世界史を読み直す試み。手作業で土を耕していた人類の労力を、一挙に軽減した「鉄の馬」だったが、ソ連、ドイツ、中国では国家主導により広まった。しかし石油を要するこの機械は、故障、事故、多額の借金など、農民に新たな問題を作った。あるいは日本で独自に発展した歩行型トラクターの存在など、知らない話ばかりだ。人間と機械の関係について、改めて考えさせられる。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』など

<サンデー毎日 2017年11月5日増大号より>

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