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首相が3%賃上げ要請 数値ありきは疑問がある

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 安倍晋三首相が来年の春闘を巡って3%の賃上げを経済界に求めた。賃上げ要請は5年連続だが、具体的な数値に踏み込んだのは初めてだ。

 今年の春闘の賃上げ率は2%弱と2年連続で縮小した。実績を上回る水準を持ち出し、企業に一段の賃上げを促す狙いとみられる。

 円安や堅調な世界経済を反映し、企業収益は過去最高の水準にある。だが賃金が伸び悩んでいるため、消費に力強さを欠き、政府が目標とするデフレ脱却のめどが立たない。

 消費の活性化には十分な賃上げが欠かせない。企業もたくわえた利益を積極的に社員に還元すべきだ。

 政府が賃上げを後押しする政策も重要だ。首相がこれまで賃上げを促してきたことも一定の効果があっただろう。ただ、だからといって、具体的な数値目標を明示する手法には疑問がある。

 賃金は本来、労使交渉で決めるものだ。政府が介入する「官製春闘」は、企業の生産性向上とともに賃金も上がるという経済原則をゆがめると指摘されている。

 生産性や収益は企業ごとに異なる。首相が一律の目標を示しても、企業の実力を反映しない賃金水準に無理に引き上げてしまうと、長続きしないのではないか。

 必要なのは、企業が賃上げしやすい環境を整備することだ。

 賃金が伸び悩む要因の一つは、人手不足を非正規社員で補う企業が多いからだ。待遇改善には「同一労働同一賃金」の早期実現が欠かせないが、首相は衆院を解散して関連法案の審議を先送りしてしまった。

 企業の生産性向上には、成長分野に参入しやすくする規制改革が重要である。アベノミクスは当初、規制改革を成長戦略の看板政策に据えたが、これまで金融緩和や財政出動に頼り、成長戦略の成果は乏しい。

 首相は賃上げ促進のため「予算や税制など政策を総動員する」との考えも示した。その柱が最近打ち出した「生産性革命」だが、緒についたばかりだ。看板を取り換えただけに終われば、いくら賃上げを要請しても、十分に進まないだろう。

 民間への干渉を強めるよりも、従来政策の効果と課題を検証し、そのうえで必要な対策を着実に講じていくべきだ。

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