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岡崎 武志・評『戦争育ちの放埒病』『小さな平屋に暮らす。』ほか

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今週の新刊

◆『戦争育ちの放埒病』色川武大・著(幻戯書房/税別4200円)

 1989年に60歳で死去した色川武大。全16巻の全集も出ているが、そこに収録されない随筆が86編、『戦争育ちの放埒病』に集結した。表題の一編は、著者を知るミニ自伝になっている。

 9歳で日支事変、13歳で太平洋戦争の「戦争育ち」。「性に合うこと」が少ない男で、小学4年で浅草のレビュー小屋は「性に合う」ことを知り、入り浸る。幼いなりに「火宅」と「放埒(ほうらつ)」を覚えた。

 以後は徹底していて、風呂にも入らず歯も磨かず、爪を切るのも辛(つら)い。「ナルコレプシー(過眠症)」という病も加わって、「その後何をやっても、ゼロからスタート」という人生を歩むことに。そうして生まれたニヒルと人なつっこさが同居する独自の世界が、本書のあちこちに垣間見られる。

 第4章は、編集者、作家、芸人、ばくち打ちなど多士済々との交遊録。吉行淳之介を「物をおそれる人である。怖い、という言葉をとても広範囲に使う」と居合斬りのような観察眼がすごい。

◆『小さな平屋に暮らす。』山田きみえ/編・雨宮秀也/写真(平凡社/税別1800円)

 山田きみえ編・雨宮秀也写真『小さな平屋に暮らす。』は、薄くて軽くて、しばらく持ち歩きたい一冊。郊外、里山の、豪邸も可能な広めの敷地に、あえて小さな家を建てて暮らす人たちの話。

 千葉県我孫子市郊外の切妻(きりづま)屋根の三棟。造園家の住み手らしく、原っぱのような庭と大谷石の中庭が、暮らしと一体になっている。図書室棟は家族がくつろげ、仕事もできる。家のあり方から暮らしが作られているんだなあ。

 埼玉県狭山丘陵の雑木林が残る一画にある、築12年の東西に長い平屋は、夫婦2人暮らし。建築家には「猫たちと楽しく暮らせる家」を、と依頼。「家事は苦手だから掃除の楽な家がいい」と、設計者との話し合いで、住み心地のいい家ができることがわかるのだ。

 「家の原型のように思える、小さな平屋は/住まいに、暮らしに、/ほんとうに必要なものは何かを語りかけてくる。」という編者の言葉が、ページをめくりつつ、呪文のように反芻(はんすう)される。

◆『本気になって何が悪い』唐池恒二・著(PHP研究所/税別1700円)

 『本気になって何が悪い』の著者・唐池恒二は、JR九州の会長。国鉄分割民営化で大赤字路線が背負った逆境を、さまざまな改革を打ち出し、2016年には悲願の株式上場を実現させた立役者。30年で売り上げ4倍増という奇跡はどうして生まれたか。「ゆふいんの森」「あそBOY」という人気車両による鉄道事業の改革とともに、船舶、外食など新規事業への挑戦もあった。「地方創世の鑑」といわれた「ななつ星」をデザインした水戸岡鋭治との「本音で申す」対談を章ごとに付す。

◆『小林一茶』大谷弘至・著(角川ソフィア文庫/税別760円)

「雀の子そこのけそこのけ御馬が通る」「目出度さもちう位也おらが春」と、人口に膾炙(かいしゃ)した句を世に送り出した『小林一茶』。編者の大谷弘至(ひろし)のていねいな鑑賞とともに、その波乱の人生を味わう。故郷を離れた放浪生活、長引く遺産相続争い、52歳で妻帯と「孤独」な一茶を「ひねくれ者」と見る解釈を蹴り、そこに「明るい向日性」を掘り当てたのは編者の手柄である。従来「子ども向け」と軽んじられたが、「大の字に寝て涼しさよ淋しさよ」の枯れた句境は、大人しか判りません。

◆『文豪の女遍歴』小谷野敦・著(幻冬舎新書/税別840円)

 小谷野敦『文豪の女遍歴』は、教科書で教わるような明治から昭和の作家62人の下半身問題に特化した論考。夏目漱石の「実際の女関係はないに等しく、後世の人々の『恋人探し』だけがやたらに盛んだという例」に始まり、太宰治、谷崎潤一郎、樋口一葉、宇野千代、開高健の痴情を、週刊誌の記事のごとくすっぱ抜く。高見順の娘・恭子の年齢詐称を、父親の年譜から割り出すあたり

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』など

<サンデー毎日 2017年11月12日増大号より>

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