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紙面審ダイジェスト

「過半数を上回る」は誤りか

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 紙面審査委員会は、編集編成局から独立した組織で、ベテラン記者5人で構成しています。読者の視点に立ち、ニュースの価値判断の妥当性や記事の正確性、分かりやすさ、見出し、レイアウト、写真の適否、文章表現や用字用語の正確性などを審査します。審査対象は、基本的に東京で発行された最終版を基にしています。指摘する内容は毎週「紙面審査週報」にまとめて社員に公開し、毎週金曜日午後、紙面製作に関わる編集編成局の全部長が集まり約1時間、指摘の内容について議論します。ご紹介するのは、その議論の一部です。

<10月20日>

■容疑者の肩書「元」はいつまで?

 幹事 16日朝刊社会面に<元テレ朝社員 また逮捕/性的暴行容疑 懲役10年の服役後>という見出しの記事が掲載された。強姦(ごうかん)罪などで13年前に懲役10年が確定した元テレビ朝日社員の男が、出所後に再び女性に性的暴行を働いたとして強制性交等容疑などで逮捕されたという内容だ。男の肩書を「元テレビ朝日社員」としたことに違和感を持った。いつまで「元」の肩書を男は背負うのだろうかという点にである。この記事には書かれていないが、服役が決まった時点では、事件に絡んでテレ朝を懲戒解雇されているはずだ。実際、後述するように他紙によると解雇されたのは2002年、つまり15年前まで所属していたテレ朝について、記事は「元」を付けて報じている。今回の逮捕容疑は今年7月のものだ。テレ朝社員当時のことなら「元」でも仕方がないかもしれないが、そうではない。

 この記事は扱いや書き方から想像すると独自報道と思われる。実際、東京紙面で見る限り、同じ朝刊で報じたのは産経だけだ。産経は社会面に<元民放社員 女性暴行疑い>の見出しで、記事も元民放テレビ局員としており、「テレビ朝日」の社名は伏せている。16日夕刊社会面で追いかけた朝日は、<元テレ朝社員/強制性交容疑>の見出しで、記事も元テレビ朝日社員とし、2002年に懲戒解雇されたことを明記した。同じく夕刊で追いかけた日経は産経同様に元民放社員とした。

 「元」はいつまで使うべきなのか、そして今回のケースではどのような肩書表記が適切なのか。紙面審の議論では「公人的な職業なら永遠だ。職種による」との意見や、「産経のように民放として匿名化するのは実名報道の原則からはずれる」とか、「朝日のように懲戒解雇したことを明確に書けば、テレ朝のメンツも立つ」といった意見、さらには「元テレ朝社員と書かなければ社会面のニュースとして扱われなかったかもしれない」など、さまざまな意見が出た。

 司会 記事を出した大阪社会部から聞いていると思うが、社会部。

 社会部長 大阪からの回答を読み上げる。指摘のように産経と本紙の特ダネだ。15年前とはいえ、テレ朝社員による暴行事件は当時かなり騒がれた。その男が出所後に再び同様事件を複数回起こして逮捕された。実名報道が原則で、テレ朝と報道機関名を書くのは当然と考えた。デスク間でも念のため議論したが、社名の匿名はありえないとの判断だった。仮に社名を伏せれば記事として扱わないか、扱っても小さなニュースになっていると考える。マスコミ関係者には当然ながら高い倫理観が求められる。テレビ朝日の元社員だからこそのニュースだ。懲戒免職になっている事実は当たり前と考えてこの記事には省いたが、書いた方がよかったと考えている。なお、産経は翌日夕刊では「テレビ朝日」と社名を出して関連記事を掲載している、ということだ。

 司会 社会部長の考えは。

 社会部長 大阪の回答にあるように、懲戒解雇と書いておくべきだったと思う。大阪の回答にあるように初報も大きなニュースであったし、報道機関の関係者ということでニュースが大きくなっている。15年前とはいえ、覚えている人もいるだろうし、同じ人物がまた同じことを重ねてやっている時に、「元民放社員」としたら他のテレビ局を連想する人もいるかもしれない。やはり「テレ朝」として懲戒解雇した事実を書けば「15年もたっているからテレ朝の責任ではないだろう」と読者も思うだろう。

 司会 テレビ局なので、学芸部長。

 学芸部長 最初に指摘を読んだ時には、民放社員でいいのではないかと思ったが、社会部長の後半の発言を聞いて、テレ朝と入れるべきだと思った。

 司会 科学環境部長は。

 科学環境部長 元会社員と書くこともできたと思うが、社会部長が言っているように、あの事件のあの人物が服役して出所後もまたやっているのかという記憶を喚起させる意味では、この人物の「記号」として「元テレ朝社員」と書いた方が親切なのかなと考える。この記事で知らせたいことは「懲りていない人物がいるよ」ということなので、枕ことばとしての元の勤め先を書く方がわかりやすいとは思う。ただ、懲戒解雇されて今はテレ朝とは無関係であることは明記すべきだった。

■「過半数を上回る」は誤りか

幹事 衆院選の序盤情勢を報じた12日朝刊各紙の1面を読んで、気になる文章表現があった。「過半数」という言葉の使い方だ。「自民党単独で衆院過半数(233議席)を大きく上回る可能性がある」(毎日)、「自民党は単独過半数(233議席)を大きく上回りそう」(朝日)、「(自民党は)単独で過半数(233)を大きく上回る勢いだ」(読売)、「首相は『与党で過半数の233議席』を勝敗ラインに掲げた」(日経)、「過半数(233議席)を超える235人を擁立した小池百合子代表(東京都知事)率いる希望の党」(産経)。過半数とは半数を超える数のこと(50%超~100%)であり、「過半数を上回る」「過半数を超える」といった表現は重複表現でおかしいのではないかと思った。毎日新聞用語集を見ると、「誤りやすい表現・慣用語句」の項に「過半数を超える」が載っており、「半数を超える」「過半数に達する」に言い換えるよう求めていた。この基準に照らすと、少なくとも毎日、朝日、読売、産経の表現は間違いになる。

 ただ、本紙の過去記事を社内データベースで検索しても「過半数を上回る」「過半数を超える」という表現はしばしば登場していた。過半数を幅のある数字ではなく「過半数のうち最小の数字」と解釈して使っているケースが多いようだ。今回、多くの他紙も使ったということは、この解釈がそれなりに広がっているとも言えそうだ。原則に立ち返るべきか、少し逸脱した表現も認めていいのか。衆院選の投開票に向けて「過半数」を使う場面は多くなるだけに、確認しておいた方がいい。

司会 政治部。

 政治部長 本紙も含めて「過半数」という言葉は、過半数ラインという意味で使っている。過半数を幅のある数字として使っているわけではなく、その最小のラインという意味だ。毎日新聞用語集にある「半数を超える」とか「過半数に達する」と言い替えるのは不可能に近い。一方で、過半数を上回るというのが日本語的に誤用であるというのも事実だ。どう統一したらいいのか、校閲の判断を仰ぎたい。

 司会 校閲。

 情報編成総センター編集部長(校閲担当) この記事は共同通信の原稿のままだと思うが、用語上は誤りだ。指摘のように、毎日新聞用語集には「誤りやすい表現・慣用語句」のページで「過半数を超える→半数を超える、過半数に達する」になっていて、「上回る」も「超える」と同じ意味で不適切だ。233議席以上の数字は全て過半数なので、「過」を「上回る」ことはできないという理屈だ。ではなぜこのような表現が紙面に出てくるかというと、選挙の場合は「過半数」というのは必須のキーワードであり「半数を大きく上回る」とはできない。ではどうすればいいかというルールが確立されていない。校閲の立場からは「直しにくい」ということだ。ただし、たとえばこのようにすればという代案を三つ考えてみた。

 代案その1。自民党単独で衆院過半数の233議席を大きく上回る可能性がある。これは最小限の直しで、()を外すことによって「過半数=233」という誤解を少なくするとともに、過半数のうちの最低数である233を上回ることを明示できる。

 代案その2。自民党単独で衆院過半数ライン(233議席)を大きく上回る可能性がある。「ライン」を入れることで、233が過半数の最低数ということがより明確になる。

 代案その3。これはかなり手を入れる直しになるが。自民党単独で衆院過半数となる233議席に達し、300議席に迫る可能性がある。いったん「達し」と文章を切ることで用語上の問題を解消し、別の情報を盛り込むことで「上回る」意味を持たせる。現実問題として、共同原稿にここまで手を入れるのは難しいが、自社原稿ならある程度できるのではないか。何らかの合意に達することができるなら、投開票まで時間もないので、社内連絡すべきではないかと思うが、どうだろうか。

 司会 代案11元の過半数(233議席)と同じことではないか。

 編集部長(校閲担当) 「の」を「イコール」ととればそうなるが、「の」は日本語としていろいろな解釈ができる。()だとまるで「イコール」になるが。

 司会 政治部長はどうか。

 政治部長 直した方が良ければ直すが、その場合でも代案3は無理だ。代案1と2を両方使えるようにしてもらえればありがたい。さらに、代案2の()を取ったものも使えるようにしてもらえればいい。233議席と入れない場合もある。代案1、2と2の()を外した3案を使用できるようにしてもらえればやりやすい。

 幹事 ラインを入れれば正しいのでは。

 政治部長 そうだ。ただ、ラインを入れずに今使っているが、意味としてはラインを入れている。日本語の乱れということではあるが、意味が全く伝わらないということではない。それを我が社としてどうするか。

 司会 ここで決める話でもなさそうだ。なるべく「ライン」を入れようぐらいの感じでどうだろうか。見出しにラインは入れられない。

 情報編成総センター編集部長 了解した。見出しには無理だ。

 幹事 会議終了後に対応してもらうということで。

 司会 とりあえずは「ライン」をいれようということで。

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