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『光の犬』 著者・松家仁之さん

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 ◆著者・松家仁之(まついえ・まさし)さん

 (新潮社・2160円)

人が生きた輝かしさ

 誰の人生でも一冊の小説になる、と言われる。確かにそうだろうが、書くのは至難の業のはずだ。「想像力でもって登場人物たちが生きた瞬間に思いをはせるだけで十分だと思いました。いや、それしかできないんじゃないか、と」。北海道東部の小さな町を故郷とする添島家の3代の物語である。祖母が生まれた1901年から約110年、今は50歳を超えた孫の始(はじめ)の静かな日常に至るまでの、親族とその周囲の人々の記憶の断片をつむぐ。時間軸は行きつ戻りつする。取り立てて珍しい人や出来事はない。読者をどこへ連れていくのだろう……?

 始の側から物語の骨格をあえて取り出すならば、まず父との相克がある。結婚や出産に縁遠く、家を出ない伯母たちと母との確執も。帰郷しないまま30代で病に倒れた姉の歩とその同級生の男性との交流、彼が抱える信仰の問題と友情、出郷者たちと古里の磁場……。分かり合う努力よりもドライに距離を意識し、ばらばらの方向を眺める家族の姿が繰り返される。老いの描写は迫真だ。「家族ってものすごく強い半面、もろいと思います。…

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