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千葉聡氏=藤井太郎撮影

 ◆自然科学部門 『歌うカタツムリ』(岩波書店・1728円)

    らせんを描く論争の歴史

     「この本の編集、出版に関わったすべての人たちとのチームでの受賞だと思っています」。控えめに喜びを語る。受賞作は、カタツムリを中心に生物進化の研究史を描いたもの。明快で流れるような筆の運びが印象的だ。「カタツムリという個別のテーマを通して、進化という普遍的な課題を研究者たちがいかに解明しようとしてきたのか、科学的なものの考え方とはどういうものかを読者に示そうとしました」

     大学院修士課程の時に、小笠原諸島のカタツムリの研究を始めた。以来30年余り、北はシベリアから南はニュージーランドまで、世界中のカタツムリを対象に進化生物学と生態学の研究に打ち込んできた。大学で自分の部屋は実験用のカタツムリや淡水の貝類、昆虫など膨大な生き物たちで占められ、机は教え子の学生たちと同じ部屋に置いているほどだ。

     生物の進化については、自然選択による適応で生じるのか、偶然によるランダムな変化の結果なのかをめぐって論争が繰り返されてきた。具体的な証拠として19世紀半ばから、カタツムリが盛んに研究の対象となった。受賞作は、その歴史的プロセスをたどり、論争がまさにカタツムリのように、らせん形を描いて積み重ねられるさまを魅力的につづっている。「昔から一般的な進化の問題にアプローチするうえで、カタツムリは扱いやすくて有利だったからです」

     執筆の動機には、日本の自然科学における研究環境の劣化や大学の現状に対する危機感があったという。「若手の研究者は優秀なのに、ここ10年、研究のレベルは落ち込んでしまいました。証拠を前に仮説と仮説をぶつけ合い、立場を超えた批判や反論を通して真実に近づいていくのが科学の方法ですが、今はそれが弱くなっています。すぐに役に立つ技術ばかりが重視され、技術と科学が混同して考えられているのが理由です。一般の人々に科学とは何かを伝えなければいけないという思いがありました」

     例に引くのは、戦後間もない時期に科学者たちが「科学的な考え方を伝えることを怠った」と反省していたことだ。「科学的なリテラシーを軽視したために、日本は敗戦という大きな破綻を招きました。今起こっていることも、それと変わらない面があります」。柔らかい筆致の背後に深刻な問題意識が脈打っている。【大井浩一】=つづく


     ■人物略歴

    ちば・さとし

     千葉県生まれ。東京大大学院博士課程修了。東北大東北アジア研究センター教授(進化生物学、生態学)。共著『生物多様性と生態学』など。57歳。

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