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<その181> 反骨のルポライター=城島徹

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出版を祝う会の鎌田慧さん(右から2人目) 拡大
出版を祝う会の鎌田慧さん(右から2人目)

 「自動車絶望工場」「六ヶ所村の記録」「大杉栄 自由への疾走」「狭山事件 石川一雄、四十一年目の真実」などの著作があるルポライター、鎌田慧さんの半生を浮き彫りにした「声なき人々の戦後史(上下巻)」の出版を祝う会が先月末、東京都内で開かれた。社会の不条理を告発してきた「反逆生活50年」で初めてという祝賀会を「最初で最後」と照れる鎌田さんに、約200人の出席者から「さらなる健筆を」と期待の声が上がった。

 半世紀にわたり精力的に執筆、取材を続けてきた79歳の鎌田さんの足跡を朝日新聞の出河雅彦記者が「読者に紹介したい」と考え、鎌田さん本人から丹念に聞き取りを重ね、上下巻で計779ページに及ぶ新刊として藤原書店が出版した。

 祝福に駆け付けた顔ぶれも個性的で、沖縄の彫刻家、金城実さんが叫ぶように盟友をたたえ、ベトナム報道で知られる写真家の石川文洋さん、軍事ジャーナリストの前田哲男さんら80歳目前の同世代と並び立つと、「長生きして!」という熱い声援が飛んだ

 特定秘密保護法、集団的自衛権行使を含む安全保障関連法が相次ぎ施行され、安倍晋三首相が「9条改憲」に意欲を見せるなか、自民党大勝という衆院選の余韻が渦巻く会場で、反骨のルポライターへの祝辞には現状を憂える声が多く聞かれた。

 昭和史に精通するノンフィクション作家で「安倍首相の『歴史観』を問う」の著者、保阪正康さんの言葉はとりわけ印象に残った。19世紀末のロンドンで、「東洋の学問」確立を目指して遊学中の植物学者、南方熊楠が、中国の近代化の思いを抱えて亡命中の革命家、孫文と出会い、将来の夢を語り合ったという交流を踏まえた興味深い内容だったからだ。

 熊楠と孫文の若き日の共鳴は永遠に響き続けるものではなく、後年、二人の関係は次第に疎遠となり、中華民国総統となって国賓として来日中に再会を望んだ孫文に、熊楠は応じることなく、後に「人の交わりにも季節あり」という趣旨の言葉を残した。

 保阪さんはその逸話になぞらえ、「これまで私は鎌田さんに黙礼はしても、ほとんど話す機会がありませんでした。しかし、私たちは熊楠と孫文の関係とは逆に、会うべき季節が訪れたように思う」と語ったのだ。

 若い世代の姿が少ない会場だったが、その場に居合わせた熟年世代は深くうなずき、やがて大きな拍手で応えた。それはまさしく、鋭利な筆で社会の矛盾を告発し、時代への警鐘を鳴らし続けてきた鎌田さんへの「共感と敬意を込めたエール」だった。【城島徹】

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