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村上陽一郎・評 『完訳 天球回転論 コペルニクス天文学集成』=ニコラウス・コペルニクス著

 (みすず書房・1万7280円)

「革命」の最重要典拠 公刊は歴史的事件

 「天が動くのか・大地が動くのか」、文字通り天地がひっくり返るこの大転換を成し遂げた、と言われるコペルニクス。カントは自らの立場の新しさを表現するために、「コペルニクス的転換」と謳(うた)い、「コペルニクス革命」という表現も珍しくない。十六世紀半ば、この説が発表され、それを支持したガリレオが筆禍に遭い、科学と宗教の軋轢(あつれき)を論じる際の、代表的事例としても扱われてきた。そのような受け止め方の是非は措(お)くとして、そのコペルニクスの主著の翻訳は、これまでに、戦後間もなく科学史の先達矢島祐利の『天体の回転について』(岩波文庫)が唯一の存在であった。これは、原著全六巻の第一巻の訳であり、基本的には仏語からの重訳とも言えるもので、先鞭(せんべん)を付けた矢島氏の苦労は多とするも、全訳でないことに加えて、原典の選択、表題の付け方、あるいは内容上でも、今となっては幾つかの重大な難点を指摘せざるを得ない状態であって、新訳の発表が渇仰されていた。今回、訳者として望むべき最高の人物を得て、本書の公刊に至ったことは、歴史的な事件とも言うべきで、索引も入れれば七百ページを超える大部、価格も高額で、内容の専門性も高く、一般の読者に手軽にお勧めするべき書物ではないが、日本でも人口に膾炙(かいしゃ)した「コペルニクス革命」なるものの本質を知るために、立ち返るべき最重要な典拠が、正確、精密な形で私たちの財産になった事実は、少なくとも常識のなかに組み込まれてよいことだと信じる。逆に言えば、それほど今の常識のなかで、コペルニクスの業績は歪(ゆが)められてきたとも言えるだろう。

 本書の構成は、原典(ラテン語)の批判的選択に始まり、面倒な計算も厭(いと)わずに、極めて綿密な訳者…

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