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自然の奥深さを見せた山田和樹&仙台フィルの北欧プログラム

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 山田和樹と仙台フィルハーモニー管弦楽団による特別演奏会が10月22日、仙台銀行ホール イズミティ21で行われた。ミュージックパートナー時代から続く同シリーズも5回目。この日は台風が近づき大雨に見舞われたが、共演するたびオーケストラの新たな面を引き出す山田の7カ月ぶりの登壇に、多くの人がホールへと足を運んでいた。

仙台フィルへ7カ月ぶりの登壇となった山田和樹
仙台フィルへ7カ月ぶりの登壇となった山田和樹

 演奏会の冒頭から、弦の響きに魅了されてしまう。シベリウスの組曲「カレリア」の第2曲〝バラード〟で聴いた、厳しさを内に秘めつつも角が取れて暖かく凜(りん)とした音色は、少なくとも私が経験した仙台フィルの演奏では聴いたことのないものだ。また第3曲〝行進曲ふうに〟では重くなりがちなリズムも常に軽やか、それでいて旋律を大きく捉え、音楽の一貫性を失わないことで心地よい緊張感を与えていたように思う。今回チェロを手前、つまり従来のヴィオラの位置に配置したことも、低弦のリズミカルな支えのうちに弦の響きがまとまり、奏功していた。

 続くグリーグのピアノ協奏曲では、2016年の仙台国際音楽コンクール優勝者、キム・ヒョンジュンが登場した。全体的に少し硬さが感じられたが、コンクールの際に全身から繰り出されたあの豊かな音色を考えれば、より深みのある響きが出せたはずだ。特に今回のホールはコンクール時と異なり、音が曇って客席へと飛びにくい欠点もある。それでも、カデンツァで見せた色気、情感豊かな音色からは、やはりコンクールで聴いた豊かな音楽性の片りんが感じられた。

 オーケストラは協奏曲でも素晴らしかった。カデンツァに続くもやが立ち上るような出だし、第2楽章冒頭のフルートやチェロの味わい深いソロに、幼い日に聴いた往年の指揮者の演奏を思い出す。ピアノの情感をオーケストラがリードするような場面もあり、文字通りピアノとオーケストラの美しい協奏となった。

アンコールではアンダンテ・フェスティーヴォ(弦楽合奏版)が演奏され、その美しさに会場が静まり返った
アンコールではアンダンテ・フェスティーヴォ(弦楽合奏版)が演奏され、その美しさに会場が静まり返った

 プログラムはシベリウスがフィンランドの自然をうたった交響曲第2番でフィナーレを迎えた。湖面にかすみがかかるような情景、日の出とともに光があたりを照らす様子――まるでフィンランドの美しい自然が、目に浮かぶようだ。かと思えば第2楽章ではこれでもかとグロテスクな面を浮き彫りにし、その意外性も楽しんだ。第4楽章フィナーレでは緊迫した音色を次々と重ねてオーケストラの一体感も最高潮を迎え、聴いているこちらも厳しくも雄大な自然の中に身を置かざるを得ない。シベリウスはこんなにも雄弁だったのだろうか? それとも自然がそうさせるのか? そんなふうに思えるほど、今回の公演はオーケストラ全体が同じ音楽を共有し、訴えかけるものがあった。それはもちろん指揮者・山田和樹の力量でもあり、両者のリレーションシップのたまものでもあるだろう。こうした関係が一過性のパートナーシップで終わることなく、今後も温められていくことを、切に願うばかりである。(正木裕美)

公演データ

【「山田和樹×仙台フィル vol.5」ホライズン~地平線~】

10月22日(日)15:00 仙台銀行ホール イズミティ21・大ホール

指揮:山田和樹

ピアノ:キム・ヒョンジュン

管弦楽:仙台フィルハーモニー管弦楽団

シベリウス:組曲「カレリア」作品11

グリーグ:ピアノ協奏曲イ短調 作品16

シベリウス:交響曲第2番ニ長調 作品43

筆者プロフィル

 正木裕美(まさき・ひろみ) 国立音楽大学(音楽教育学)、同大学院(音楽学)修了。クラシック音楽の総合情報誌「音楽の友」編集部勤務を経て、現在は仙台市在住。「音楽の友」編集部では、全国各地の音楽祭を訪れるなどフットワークを生かした取材に積極的に取り組んだ。東日本大震災発生後、仙台に移り住み、同市を拠点に東北各地の音楽状況や音楽による復興支援活動などの取材に力を入れている。

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