SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『スティール・キス』『澁澤龍彦 ドラコニアの地平』ほか

  • はてなブックマーク
  • メール
  • 印刷

今週の新刊

◆『スティール・キス』ジェフリー・ディーヴァー/著、池田真紀子/訳(文藝春秋/税別2500円)

 文句なくハラハラドキドキさせる当代一のミステリーが、ジェフリー・ディーヴァーのリンカーン・ライムシリーズ。最新刊『スティール・キス』(池田真紀子訳)が出た。天才的頭脳を持つ四肢麻痺(まひ)のライムの手足となって刑事アメリアが走る。

 連続殺人犯「未詳40号」を追跡するアメリアは、ショッピングセンターで起きたエスカレーター事故の混乱で犯人を取り逃がす。しかし、事故ではなく犯人が巧みに仕組んだ殺人であり、被害者も偶然選ばれたわけではなかった。そして第2、第3の殺人が……。

 今回、ライムは犯罪捜査から引退し、事件に関われない。事故の民事訴訟という形で調査を引き受けるという異例の事態。車椅子の有能な弟子アーチャーがチームに加わり、シリーズ第12弾にして新たな展開が読者を待つ。

 ハッキングで日常生活に身近な道具をコントロールし、殺人を挙行する犯人が不気味。これを読むと電子レンジが怖くなる。

◆『澁澤龍彦 ドラコニアの地平』澁澤龍彦・著(平凡社/税別2400円)

  東京・世田谷文学館で開催中の澁澤龍彦展(12月17日まで)に合わせて作られた公式カタログが『澁澤龍彦 ドラコニアの地平』。この異端の碩学(せきがく)にして趣味人が没して30年になる。

 夫人の澁澤龍子と四谷シモンの対談をはじめ、周りの人々の回想や論考と共に、草稿・創作メモ、身の回りの愛蔵の品々、単行本の書影など、まさに澁澤の世界が一冊に閉じ込められている。ページをめくる指が震え、広がる地平に心が躍り、目が歓喜する。

 フランス文学とシュールレアリスム、サドの翻訳紹介、プリニウスなどの博物誌、幻想的な小説と、澁澤龍彦は日本文学の本道から逸(そ)れた脇道に、黙々とエロスと異端の高速道路を敷いた。唯一無二の存在であるからこそ、死後30年を経て、みな慕い恋い焦がれるのだ。

 「さて、芸術に毒は必要か。私は必要だと思う。食物に塩味を利かせるように、芸術にも毒の味をうっすらと(後略)」。毒を食らわば皿までもいこうじゃないか。

◆『仕方ない帝国』高橋純子・著(河出書房新社/税別1600円)

 高橋純子は元朝日新聞政治部次長。次長時代に書いたコラムは、何かと物議を醸した。反安倍政権の姿勢を貫くのが特徴だが、それを「だまってトイレをつまらせろ」なんて書く(趣意は読んでください)。森友学園問題も「スケベはスケベを呼ぶ」と権力構造を批判する。これらは、読者から「下品な」とか「中学生みたいな文章を書くな」とお叱りも受けたという。いいじゃないか。『仕方ない帝国』は、そんな切れ味も、キレ味もマックスのコラム集。町田康ほかへのインタビューも収録。

◆『少年探偵団・超人ニコラ』江戸川乱歩・著(岩波文庫/税別950円)

 江戸川乱歩『少年探偵団・超人ニコラ』が岩波文庫に! 小学校の図書室でポプラ社版の単行本で親しんだ方も多いだろう。説明不要の怪人二十面相と小林少年および探偵団の活躍を描く、大人気シリーズ。その2作目と最終作を収録。ポプラ社版は時代に合わせて手直しがあったが、「少年探偵団」は雑誌『少年倶楽部』に連載された1917年版の初出を採用。寂しいお屋敷町、空き地、チンドン屋、怪しい地下室を持つ西洋館と、日中戦争が始まった日本の闇の深さがこれでよくわかる。

◆『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』松本博文・著(NHK出版新書/税別820円)

 松本博文『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』。これは売れるだろうなあ。14歳で「29連勝」ほか、次々と最年少記録を打ち立て、将棋をトレンドにした少年。本書は、本人、親族、棋士、その関係者から聞き取り取材、世紀の天才について、みんなが知りたいことを全て開陳する。5歳で将棋を覚え、6歳で「しょうぎのめいじんになりたい」と書いた。子ども将棋教室、研修会、奨励会と駆け足で過ぎ史上最年少プロに。そして快進撃が始まった。これから、も含めて興味津々の一冊である。

-----

岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』など

<サンデー毎日 2017年12月3日号より>

あわせて読みたい

注目の特集