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教育改革シンポジウム

毎日大学フォーラムin九州 これからの大学ブランディング

九州地区の大学関係者が耳を傾けた毎日大学フォーラムで=10月26日、福岡市内で
しおざき・ひとし 1944年、和歌山県生まれ。大阪大医学部卒。西ドイツ・ハイデルベルグ大留学、同大第二外科助教授、近畿大医学部第一外科教授、同大医学部長などを経て、2012年、同大学長。専門は上部消化管外科
たなか・ゆうこ 1974年、法政大文学部卒。同大大学院博士課単位取得満期退学。同大第一教養部専任講師、社会学部教授などを経て、2012年、社会学部長。14年、同大総長。専門は江戸時代の文学、生活文化、アジア比較文化
むらた・よしのり 1985年、文部省入省。文部科学省高等教育局学生支援課長、同医学教育課長などを経て、2016年、同私学部長

社会の変化に応え

 第28回毎日大学フォーラム(毎日新聞社主催、文部科学省後援)がこのほど、福岡市博多区のホテルであり、「これからの大学ブランディング」をテーマに大学関係者が参加して議論を深めた。近畿大の塩崎均学長が「近大流ブランド作りの流儀」、法政大の田中優子総長が「法政大学のブランディング・プロセス」、文部科学省私学部の村田善則部長が「大学改革の方向性~特色ある大学づくりに向けて~」と題し、それぞれ基調講演。パネルディスカッションでは3氏に、コーディネーターとして毎日新聞大学センターの中根正義センター長が加わり意見を交換した。【構成・坂井廣史】

    基調講演1 「近大流ブランド作りの流儀」 塩崎均・近畿大学学長

    固定概念「ぶっ壊す」

     2014年の正月、近大は新聞に、山の頂点から巨大なマグロが顔をのぞかせるデザインの全面広告を掲載し、話題を呼んだ。実は当初、私は掲載に反対だった。「固定概念を、ぶっ壊す。」というキャッチコピーをつけたが、富士山を使うのはダメだろうと。しかし、一見、富士山のようだが、よく見るとそうではない。なるほど固定概念にとらわれていたようだと思い、それを「ぶっ壊す」ということで、ゴーサインを出した。その結果、毎日デザイン賞の最高賞なども受賞した。

     本学は創立92年。古くから伝統のある大学というわけではない。14学部48学科、医学から芸術までを網羅する総合大学だ。キャンパスは広島や九州など6カ所に分散している。

     建学の精神は「実学教育と人格の陶冶」。実学とは独創的な研究を社会に生かし、収益を上げることにもつなげるということだ。創立当初は「大学が金もうけとは、もってのほか」という意見もあったと思う。ただ、私学は自分たちの力でやっていかねばならない。研究費も自ら稼がねばならない。

     その成果の一つとして話題になったのが、マグロの完全養殖の成功だった。成功するまで32年かかった。その後、料理店事業として、大阪と東京に近大マグロなどを出す「近畿大学水産研究所」という店をオープンするまでになった。だが、単に収益事業としてやっているわけではない。店は学生の学び場にもなっている。

     本学は伝統や偏差値、序列に縛られずフェアな環境を作り出し、レベルアップを果たすことを目指してきた。インターネットによる出願も実現した。「お笑い」系の会社と連携してコミュニケーション力を高めたり、医学的な検証を行ったりといった研究もしている。国際学部はグローバル人材養成企業の力を借りながら、アメリカや中国、韓国への留学を義務付けた。現在、企業からの研究受託件数も日本トップクラスとなっている。

     近大を語るキーワードは「大学初」「日本初」だ。全学的方針は全教職員が広報員となること。報道に対応するために、所属研究者の情報を網羅したコメンテーターガイドブックを毎年出している。プレスリリースは昨年474件出し、うち233件が報道された。こうした取り組みもあり、本学はここ4年、志願者数トップになっている。これからも近大パワーで更なる成長を目指していきたい。

    ◇基調講演2「法政大学のブランディング・プロセス」 田中優子・法政大総長

    社会との約束実現

     大学間競争が国内だけでなく世界に広がる中で、法政大は競争という考え方から発想したのではなく、大学の個性や歴史をよく知ってもらうことを重視してきた。ブランドとは何かと定義するなら、「社会との約束である」ということだ。世間に目立つということではなく、約束を実現し、それを安定的に長く続けることで、信頼を得ることを目指している。

     とはいえ、ブランディングを最重要事項としてきたわけではない。長期ビジョンという全体像の中の一つという位置付けだ。策定作業は2014年4月に開始し、大学がどのように社会に貢献できるか▼少子化が進む中、今後あり得るかもしれない財政的な困難をどう乗り越えるか▼研究をいかに維持するかーーなども考えてきた。

     18歳人口の減り方などを見てみれば、社会人や留学生も視野に入れた、さまざまな改革が必要であることが分かる。ダイバーシティ(多様性)やグローバル化が進む中、変化する社会で生きていける能力を育む必要があり、大学にも今までとは違う学生が入ってくるようになっている。民族も言語も信仰も多様だ。そのような現実と向き合っていかなければならない。ブランディングはその中の一つの要素として、重要だということだ。

     ブランディング作業はワークショップ方式をとり、学内で何度も「言葉」を出し合い、議論し、学外のOBや法政大を知っている人からヒアリングをした。大学の中にいる人間と外部からでは見え方が異なるからだ。

     その過程で外部からのイメージや長所や次点が見えてくる。このプロセスで教職員が現実に直面し、認識するようになる。多様性を共有する中で「自由」という言葉こそがキーワードであるとの認識が生まれ、「自由を生き抜く実践知」という概念ができてきた。「法政大学らしさ」の言語化を行ったのである。

     これを業務や教育、研究に落とし込んでいく過程で、法政大は市民のために存在するという建学の理念を改めて確認した。これから、誰もが自由を生き抜く持続可能な社会を実現するための「実践知」を広めていきたい。

     総長就任以来、ブランディングがなぜ必要なのかを学内で議論し、浸透させていくことで、大学全体の改革につながったと思っている。派手ではないが、地道に続けていきたい。どこの大学でも工夫することで、同じようなことができるのではないかと思っている。

    基調講演3「大学改革の方向性~特色ある大学づくりに向けて~」 村田義則・文部科学省私学部長

    厳しい環境 対応を

     大学は人材養成の中核を担う存在だ。地域の「知の拠点」としての役割も大きい。しかし、大学を取り巻く状況は楽観を許さない。大学へ入学する世代である18歳人口はここ10年ほどは120万人前後で推移していたが、今後は減少に転じ、2030年ごろには100万人程度に減少する。進学率の伸び、社会人入学所の増、外国からの留学者の増などの要因を考慮しても厳しい状況になる。

     大学進学率は地域ごとに違う。東京が高く、地方は低いという格差が拡大している。大学の立地などの条件もあるが、地方でも高等教育機関をどう発展させていくかが課題だ。少子化、高齢化が進み、大学の経営環境はますます厳しくなる。

     東京23区内の収容定員を抑制すべきだという方向だが、一方で地方大学の魅力をいかに高めていくか。地方の就職の場をいかに確保するかということが大きな課題である。入学定員800人程度の大学を境目に、それより規模の大きい大学と、そうでない大学との間に定員確保に格差が生じつつある。これにどう対応していくかも課題だ。

     産業構造も変わってきている。職種によってはAI(人工知能)で代替可能なものが増える。技術、技能の進歩のスピードが速く、そうした変化に対応する能力を身に着けた人材を社会に送り出すことが大学に求められるだろう。卒業した人に学び直しの環境をいかに提供するかも大事だ。これは大学だけの問題ではない。政府における人生100年時代構想会議での重要なテーマともなっている。社会一体となった取り組みが必要だ。

     進行中の大学改革については、地方大学の創生に関し、都市と地方の連携や、相互交流などの仕組み作りを推進している。東京23区の定員抑制についても議論がなされている。奨学金の活用やインターンシップ推進の仕組みもできてきた。地方の大学と地方自治体との連携や産業界との連携もなされている。

     大学での職業教育に関しては、専門職大学など産業界と協力した制度がスタートする。入試改革も大学教育の質の向上につながる。若手研究者育成のための経済的負担軽減も必要だ。大学の研究基盤強化のため、経営力を強化し、質をいかに高めるか。私立大改革は強みや特色をどう生かすか、大学改革の方向性を議論しなければならない。それらを踏まえ具体的施策を考えていきたい。

    パネルディスカッション「大学のブランディングをどう考えるか」

    生き残りかけ改革

     中根(毎日新聞社大学センター長) 現在、大学に入学する世代である18歳人口は約120万人ですが、今後15年ほどで急速に減り、100万人を切ります。大学への進学率が今のままの50%で推移するなら、15年後には大学入学者が10万人減ることになります。近大の1学年の定員は約8000人ですから、近大クラスで12校分、法政大クラスは16校分がなくなる計算です。そういう時代が訪れるということを踏まえ、大学のブランディングをどう考えるか、お聞かせ下さい。

     村田(文部科学省私学部長) 近大も法政大もブランディングに対して一見アプローチが違うように見えますが、目指しておられることは共通している。大学の強みや特色をどう発揮するか、学内できちんとした議論の下になされていると感じました。

    職員全員が「広報マン」

     塩崎(近畿大学長) 私は全部を自分の目で見て、大学の強みを確認してやってきました。6キャンパスを一つにするため月1回、学部長昼食会を開き、全ての学部の先生に情報を共有してもらっています。自分たちのノウハウを、いかにスピード感をもって発信できるかが重要です。

     中根 スピード感といえば、本イベントのアポイントメントの返事が近大はたった5日、法政大も学部長会会議の手続きを経て5日で調整して来ていただきました。意思決定の速さを感じます。また近大は所属教員の研究内容などを紹介したコメンテーターガイドブックを作成しています。

     田中(法政大総長) 近大のコメンテーターガイドブックは法政大でもやりたいと思っています。マスコミからの問い合わせに応えられる姿勢を持ち続けたい、と。近大のウェブ出願も、受験生の立場に立っておられる。社会やメディアの立場を踏まえた対応は、見習いたいものです。

     塩崎 受験生のためというだけではなく、職員のためでもあります。ウェブでの申し込みは手間が減らせてメリットも大きいのです。また「全員が広報マン」という考え方を徹底しています。各学部が何をやり出したかを、いち早く捉え、広報に知らせるように話しています。報道関係者にいいニュースを提供できるようにしています。

     中根 大学によっては、トップが代わる度に方針が変わるような大学もありますが、これからの時代、そうしたことをやっていては大学の死活問題になりかねません。

     田中 大学が生き残るために、方向性をまとめ力を結束する必要があります。そこで、法政大では大学憲章を定めました。教職員が共に取り組むことで、優秀な職員も増えてきました。教員は大学全体のことを考える意識が出ています。全員で議論し、発信していく、そうした体制ができてきました。現場の声に耳を傾けながら、教職員の意思をまとめ、モチベーションを高めることに取り組んでいます。

     塩崎 教員より優秀な職員をいかに多く抱えるかが、これからは大事だと思っています。毎年話題になる本学の入学式も、若手の職員が計画してやってくれている。大学の大きな力になっています。

     村田 大学という組織は教育、研究など様々な組織を抱えつつ、学長と部局長との関係をいかに円滑にしていくのか、丁寧な議論の積み重ねや制度をうまく運用していくのが大事だと思います。トップがいかに明確な方向性を示し、それを受け、現場がいかに積極的に教育と研究に取り組んでいくかというバランスが難しいですね。

     中根 トップとしての心掛けは、どのようにされていますか。

     塩崎 少しでも問題が見つかれば、きちんと話し合います。多数決より、意見の一致を見る形で進めていきます。

     田中 学部長には、現場の教員に説明するための「言葉を差し上げる」ように努めています。上から意見を押し付けるのではなく、説得するための「材料と言葉」を提供できなければいけません。グローバル化の方針の下、総長は学部長を後押しし、助けていくことを心掛けています。

    職員も学生育てる意識を

     中根 指導者である教員とスタッフである職員の協働について、いかがお考えでしょうか。

     村田 大事な観点です。職員が元気な大学は元気です。明確な権限と責任において協働がなされることが大切です。学内でどう職員を育成していくか。教員が上という考え方を払拭し、職員とは互いにプロとしてやっていくことが必要です。

     田中 法政大では職員から理事2人を選出するようにしました。教員には「職員はあなたの部下ではない。したがってあなたは職員に命令できない」と伝え、教員と職員は対等なのだという意識を徹底しています。職員に対しては学生を育てているという意識を持ってもらうようにしています。

     塩崎 「事務職員の学生への対応が悪い」という意見が過去にありました。職員は学生との接点となる存在です。自分たちの弟や妹のつもりで学生に接してもらいたいと思っています。

    「第二の建学」のつもりで

     中根 大学は今、大きな転換期に入っています。

     村田 18歳人口が減少するのに伴い、自らの立ち位置を考える必要があります。強みをどう伸ばしていくか。「第二の建学」のようなつもりで改革を進める時期に来ていると思います。

     田中 世界や社会の変化、要請に大学として主体的に判断し、どう応えていくか考えていきたいです。

     塩崎 大変な時代だと思います。改革のようにマグロのように泳ぎ続けなければいけません。本当の意味での学生の人格形成を目指す必要があります。

     村田 特色ある大学作りで学生に選ばれる必要があります。大学の持つ機能を生かすため、国も支援する施策を考えていきたいと思います。

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