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名作の現場

第33回永井荷風『ボク東綺譚』 案内人・島田雅彦(その1)

 永井荷風の代表作が、ある老作家と私娼(ししょう)との交情を描く『ボク東綺譚(ぼくとうきだん)』だ。舞台となった地を作家の島田雅彦さんが訪ね、老作家に重なる荷風の心中を想像した。

 荷風晩年の声を谷崎との対談の録音から聞いてみた。谷崎は老人特有の濁りある声にべらんめえ口調だが、荷風は極めて滑舌がよく、都会の紳士然とした上品さがあり、理路整然とした語り口で、万年床のゴミ溜(た)め部屋に暮らし、ストリップの楽屋に入り浸っていた独居老人のイメージは軽く裏切られる。

 内務省勤務のエリートだった父のコネでアメリカ、フランスでの銀行勤務を経験した荷風だが、青年時代に耽溺(たんでき)した戯作(げさく)の影響から文学を志し、念願のリヨン、パリ滞在でベル・エポックの風俗、音楽に触れたことによって、実業の道から外れ、洒脱(しゃだつ)な趣味人への道を極めることになった。ドレフュス事件におけるエミール・ゾラの毅然(きぜん)たる態度にも影響を受け、「反骨さもなくば低回」という…

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