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名作の現場

第33回永井荷風『ボク東綺譚』 案内人・島田雅彦(その2止)

すっかり建て替わった住宅地で、町会会館の看板に「玉の井」の名称が残る=東京都墨田区で

 東京は局所的には大火で、全面的には関東大震災と空襲によって何度も焼け野原になった都市である。復興のたびにその景観を変えてきたので、昔の面影などは何処(どこ)にもなく、ただ折々の東京があるだけだ。『ボク東綺譚』は大震災から十二、三年ほどが経過した頃の玉の井が描かれるが、荷風が見た玉の井もまた束(つか)の間、そこに見られた光景だった。かつて隅田川の左岸の向島から堀切、綾瀬にかけては綾瀬川流域に広がる田園地帯で、百花園や白鬚祠(しらひげほこら)などの名所もある「古来名勝の地」だったが、震災復興事業の一環として橋の架け替えや道路の拡張が行われると、郊外に流入する人口が増え、新興の花町が出現した。荷風が見たのは震災の前後、浅草にあった銘酒屋が移転し、私娼窟になった玉の井だった。

 ごたごた建て連った商店の間の路地口には「ぬけられます」とか、「安全通路」とか、「京成バス近道」とか、あるいは「オトメ街」あるいは「賑本通(にぎわいほんどおり)」など書いた灯がついている。

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