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本村凌二・評 『時代を「写した」男ナダール 1820-1910』=石井洋二郎・著

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 (藤原書店・8640円)

一生涯大志を抱いたボヘミアン

 「青年よ、大志をいだけ」と鼓舞されても、若いころは、気ままで自由なボヘミアン暮らしをしてみたいものではないだろうか。ところが、大志をいだきながらボヘミアンな生き方をすることだってできる。それも生涯にわたってだから、およそ桁外れな人間がいる。

 百科事典をひもとけば、ナダールという男は「19世紀フランスの写真家」で通る。じっさい、『悪の華』の詩人ボードレールや『レ・ミゼラブル』の作家ユゴーをはじめ、当代の芸術家・文化人の多くが彼のカメラの前に立っている。渡仏した二十七歳の福澤諭吉すら被写体になっている。今のように瞬時に写るわけではないから、数分間もじっとしているのは写される側にも難儀な時代だった。

 しかも、この男はどこまでも貪欲だから、空にも地下にも視野を広げる。偶然にも気球に乗る機会がくると、すかさず自分の職業意識と結びついて空中写真の撮影という欲望が湧き出るのだ。野心的な試みだが、事はかんたんではなかった。何度やっても煤(すす)で覆われたような真っ黒な画像しか得られない。

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