メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

自賠責未返還

希望の命綱つないで 被害家族、先細り不安

翔子さんに語りかける大竹さん夫婦。回復を信じ、わずかな変化にも希望を持つ。口元が少し動くと、ほほ笑んでいるように思うという=兵庫県伊丹市で2017年11月6日、江刺正嘉撮影

 「交通事故で重い後遺症を負った患者と家族にとって、国の被害者救済制度は希望をつなぐ命綱。一日も早く財源を返してほしい」。交通事故で最重度の後遺症を負った娘を自宅で介護する兵庫県内の夫婦は、自動車損害賠償責任(自賠責)保険の運用益約6100億円が本来の特別会計に戻されていない問題に不安を覚えている。被害者救済策の先細りにつながりかねないためだ。【江刺正嘉】

 同県伊丹市の大竹宏さん(54)は深夜から午前6時の起床まで2時間おきに起き、床ずれを防ぐためベッドの次女翔子さん(22)の体位を変える。日に5、6回てんかんの発作も起こす。在宅介護を始めた5年前から気が休まる時はない。

 宏さんは起床すると妻美佐子さん(52)と翔子さんの体をマッサージして、関節を曲げ伸ばす。ヘルパー派遣や介護サービスも利用するが、寝たきりで意識も戻らない娘を介護する疲労が夫婦に重くのしかかる。

 翔子さんは1995年、阪神大震災の年に生まれた。被災した夫婦は名前に「21世紀に羽ばたいてほしい」との願いを込めた。だが、中学3年生だった2010年7月、事故は起きた。翔子さんの自転車は交差点を青信号で渡っていたのにトラックにはねられた。「学校の先生になるため上のレベルの高校に行きたい」と通い始めた学習塾から帰宅中だった。

 翔子さんは延べ10カ所の病院で治療やリハビリを受けた。夫婦は「車椅子生活になっても少しは意思疎通ができるようになるはず」と期待したが、改善しなかった。12年末から在宅介護を始めたが、すぐに夫婦で協力しなければ無理と分かった。宏さんは映像製作会社のカメラマンを、美佐子さんも准看護師を辞めるしかなかった。生活を支えているのは在宅患者に支給される介護料(月額最高13万6880円)だ。

交通事故死者、重度後遺障害者、介護料受給者の推移

 夫婦は在宅介護の前に、国土交通省所管の独立行政法人が自賠責保険の運用益を元に全国8カ所で運営する専門病院に申し込んだが、「在宅で対応できる状態になっている」との理由で断られたという。翔子さんはまだ若く、宏さんは改善例が豊富な専門病院が諦められない。自分たちがいなくなった後のことも不安だ。「専門病院が増えれば入院できるかもしれない。在宅介護支援も強化すべきだし、再生医療の進展にも期待したい」

 しかし、介護料や専門病院の運営などに使われるはずの自賠責保険の運用益は「財政難」という財務省の都合から一般会計に繰り入れられたままだ。特別会計に残った財源も十数年で消滅する可能性が指摘されている。

 宏さんは訴える。「財務省は、重い後遺障害の患者を介護する家族の大変さを知ってほしい。わが子に少しでも回復してほしいと願う希望のともしびを消さないでほしい」

介護料受給4000人

 重い後遺障害を抱えた患者を自宅で介護する家族の負担を軽減するため、自賠責保険の運用益を財源に、重症度に応じて月額13万6880円~2万9290円の介護料が支給されている。

 救命医療の進歩で死者は減っているが、重度後遺障害者は毎年新たに1800人程度が認定され、横ばい状態が続いている。これに伴い、介護料の受給者数も4000人台半ばで高止まりしている。国土交通省は2018年度予算の概算要求に介護料支給費として約31億円を盛り込んでいる。

【ことば】自賠責運用益の未返還問題

 交通事故の被害者対策の財源として国の特別会計に計上されていた自賠責保険の運用益が「財政難」を理由に20年以上も前に一般会計に繰り入れられ、今も約6100億円が返還されていない。国交省は過去4回、財務省との間で返還期限について両大臣名の覚書を交わしたが、延長が繰り返されてきた。4度目の期限が来年度中に迫っていることから、被害者らでつくる団体が財務省に期限内の返還を求めている。

関連記事

毎日新聞のアカウント

話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. 御堂筋線なんば駅 16キロ分天井ボード落下 漏水原因か
  2. 訃報 左とん平さん80歳=俳優 「時間ですよ」
  3. 本社世論調査 裁量労働制の対象拡大「反対」57%
  4. 平昌五輪 和やかなフィナーレ 閉会式、選手77人参加
  5. キャンパスへ行こう! 東京家政大学・狭山キャンパス(狭山市) 小児に寄り添い診療 アレルギーと発達障害に特化 /埼玉

編集部のオススメ記事

のマークについて

毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです

[PR]