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社説

危機の社会保障 首都圏の「介護難民」 五輪後では間に合わない

 体が不自由になっても、介護を頼める人手が見つからない。入院したくても病床はいっぱい。介護や医療の手当てを受けられず「孤立死」する独居の高齢者が増えていく。

     10年を待たずして、首都・東京にそんな光景が広がる恐れがある。

     2020年東京五輪・パラリンピックの開催まで3年を切った。競技会場の建設が急ピッチで進むが、その華やかな五輪後、東京では急速に超高齢化社会が到来する。全国から集まった「団塊の世代」を中心とした層が一気に高齢化するためだ。

     戦後の高度成長期、東京には地方出身者が急増した。23区内の住宅は不足し、区外の開発が不可避になった。東京都西部の稲城、多摩、八王子、町田の4市にまたがる「多摩ニュータウン」は、そんな需要から開発された地域だ。

    都市部で顕著な高齢化

     1971年から入居が始まり、現在の人口は約22万人だ。ただ、初期の入居地区を中心に高齢化や団地の老朽化も著しい。10人に4人が高齢者という地域もある。

     地方から人を吸収してきた東京は、今後、その大きな塊がまとまって高齢化する。それに伴って最も深刻になるのが、介護や医療の問題だ。

     社会保障の危機は東京を中心とする大都市圏で、最も早く顕在化することになる。

     岩手県知事や総務相を務めた増田寛也氏が座長を務める「日本創成会議」は15年、東京をはじめ千葉や埼玉など首都圏の将来を分析し、医療、介護サービス不足が深刻化する、と警鐘を鳴らした。

     75歳以上の後期高齢者では、3人に1人が要介護状態になる。74歳までの前期高齢者は20人に1人ほどで、その差は7倍にもなる。

     都は特別養護老人ホームの定員を、15年の約4万4000人分から25年度末には6万人に増員し、サービス付きの高齢者向け住宅も、1万戸程度増やすプランを掲げるが、十分に対応できるか疑問だ。

     東京の区部では施設建設の十分な土地を確保することが難しい。土地を含めた建設費も高額になる。これまでは、千葉や埼玉といった周辺県の介護施設を利用することで、首都圏全体でバランスがとれていた。

     ところが、周辺県でも高齢化が進行する。25年には介護施設の収容能力がマイナスになり、これまでのような構造では乗り切れない。

     介護を必要としているのに、そのサービスが受けられない「介護難民」が、1都3県で13万人にもなるという推計もある。

     15年の東京都の人口は1326万人。このうち65歳以上の高齢者は301万人だ。これが25年には325万人になる。ほぼ4人に1人が高齢者になる計算だ。中でも後期高齢者は、15年からの10年間で50万人も増えて、198万人になる。

    介護者の不足が深刻に

     状況は首都圏で共通する。この10年間に、75歳以上が神奈川、埼玉、千葉の3県で、それぞれ40万人前後増える。全国の増加の3分の1をこの1都3県で占めることになる。

     入院需要は首都圏で2割増えると見込まれている。それに見合う受け入れ態勢が必要になるが、埼玉や千葉、神奈川は病床数なども含めて医療体制は追いつかない。

     介護需要の急増は、介護に携わる人材不足にも拍車をかける。

     都内では、今でも約1万5000人が不足している。これが25年には3万6000人に急増する。これを埋めるためには毎年2600人以上の介護職員の確保が必要だ。

     だが、低賃金や重労働ゆえに離職率は高い。人手不足が介護の劣化に追い打ちをかけかねない。人材を地方の若者に求めれば、東京一極集中をさらに進めることにもなる。

     認知症高齢者の増加も大きな課題だ。16年には41万人だったが、25年には1・4倍の56万人になると想定される。認知症が疑われる人の半数近くが独居か高齢夫婦のみの世帯だ。徘徊(はいかい)や事故の多発も危惧されるが、見守る人が足りない状況では手の打ちようがない。

     東京は高齢化が著しく進むが、逆に働き盛りの労働人口は減る。税金を納める層が薄くなるため、増える高齢者の福祉サービスを切り下げるか、増税するかしかない。

     東京五輪開催のわずか5年後には、厳しい状況が待ち受ける。都と国が連携して対応しなければ、解決は図れない。早急にしっかりとしたビジョンを示すべきだ。

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