SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『詩人なんて呼ばれて』『画狂其一』ほか

  • はてなブックマーク
  • メール
  • 印刷

今週の新刊

◆『詩人なんて呼ばれて』谷川俊太郎、尾崎真理子・著(新潮社/税別2100円)

 谷川俊太郎。『二十億光年の孤独』以来、これほどポピュラーな詩人はほかにいない。脚本、作詞、絵本など仕事も幅広い。しかし、詩壇からは黙殺に近い扱いを受けているのが不思議だ。

 その不思議に迫るため、谷川の詩業と人生に向き合ったのが聞き手・文の尾崎真理子。『詩人なんて呼ばれて』は、長時間のインタビューに尾崎の解説を加え、谷川の詩20編と書き下ろし1編を収めた谷川俊太郎読本。

 生きるということも、日常も老いも友の死も、「この世界のほぼすべてを詩に書き続けてきた」。しかも「現代の日本語をやわらかく解きほぐしながら」。ときには「詩人のふりはしているが/私は詩人ではない」などと、時代に衝撃を与えた。そして偉業は軽々と達成されたように見える。

 尾崎は、敬意を忘れず、時に鋭く斬り込んで、谷川の詩法と内実に触れる。女性たちとの出会いと別れも……。谷川は裸にされながら、なお詩の王様である。

◆『画狂其一』梓澤要・著(NHK出版/税別1700円)

 古今東西の名画が揃(そろ)う米・メトロポリタン美術館で、ひときわ目を引く日本画が「朝顔図屏風」。咲き乱れる150超の朝顔の図は、まるでモダンアートだ。作者は鈴木其一。江戸琳派の祖・酒井抱一(ほういつ)の一番弟子だった。

 梓澤要『画狂其一(がきょうきいつ)』は、現代人を驚嘆させる画家と師の関係を通して、絵画という魔の世界を描く。為三郎が抱一に弟子入りした時、師はすでに大家で出家していた。為三郎は実力を発揮し、21歳で「其一」という号を授かる。

 晩年の抱一に、好きに描いてみろと言われ、完成させたのは水の渦を題材にした「奇怪な絵」だった。激流や渓流に「生命の動き、脈動」を見いだした其一。「画狂」の誕生だ。北斎、文晁(ぶんちょう)、一九、團十郎と、江戸文化の爛熟(らんじゅく)期に、其一は独自の境地を見いだす。

 著者は画業の苦しみを、近代芸術家の悩みと同じく扱い、生々しい創作の現場に読者を誘う。桜田門外の変の前々年、其一は死去。絵画に殉じた画家であった。

◆『クリスマスを探偵と』伊坂幸太郎・著(河出書房新社/税別1300円)

 街中にジングルベルが鳴り響く時、一年の終わりを感じるのだ。『クリスマスを探偵と』は、伊坂幸太郎が初めて書いた絵本(マヌエーレ・フィオール絵)。クリスマスの夜、興行中のサーカス団から、若い曲芸師が逃げ出したニュースでもちきりのドイツ。探偵のカールはある男を浮気調査で尾行中。ベンチに座る別の男に声をかけられて、過去の「嫌な経験」について語り始める。クリスマスという特別な日に起きた特別な物語を、人気作家が子どもたちとかつての子どもたちに贈る。

◆『鴎外の婢』松本清張・著(光文社文庫/税別700円)

 カッパ・ノベルスから生まれた松本清張の傑作を文庫化したシリーズ。『鴎外の婢』は、文学研究に謎解きを交えた異色ミステリー中編。明治・大正の文豪を研究する浜村は、小倉時代の森鴎外が雇った一人の家政婦に注目し、九州へ取材旅行に出かける。孕(はら)んだまま鴎外邸に奉公した「モト」は「みめも悪くなく、心がけのよい」女だった。しかし、古書を手がかりに現地取材をするうち、その背後に見つけたのは大掛かりな歴史上の「事件」であった。「書道教授」も併録する。

◆『動物園ではたらく』小宮輝之・著(イースト新書Q/税別880円)

 パンダの赤ちゃんが「シャンシャン」と名付けられて沸く上野動物園。小宮輝之は勤続40年の元園長。『動物園ではたらく』で、飼育員の時代も含め、動物と触れ合いながら過ごした、驚き、喜びの日々を回想する。飼育員が朝、まず手がけるのはエサの準備。魚や肉、野菜を切るため、包丁さばきは板前クラスだという。宿直の楽しみは、自分が担当しない動物に会えること。ゴリラは意外にジェントルマン。日本初のインドサイのお産にも立ち会った。上野動物園が時代とともに変化することも分かる。

-----

岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』など

<サンデー毎日 2017年12月17日号より>

あわせて読みたい

注目の特集