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小説でも、読んだ人の役に立つ広い意味での実用書でありたい
◆『キラキラ共和国』小川糸・著(幻冬舎/税別1400円)
誰かに対して手紙を書くこと。その機会は残念ながら、電子メールの陰に隠れて私たちの生活からずいぶん減ってしまったのではないか。だからこそ、思いを筆に乗せて綴(つづ)ってくれる「代書屋」の物語『ツバキ文具店』は多数の読者を獲得し、ドラマ化にまで至ったのだと思う。そしてこの度、続編『キラキラ共和国』が現れた。
「ぼんやりと、“この物語には続きがあるのかな”と考えてはいました。そこへ、『ツバキ文具店』に対してびっくりするくらいの数のハガキや手紙が寄せられ、“続編を期待しています”と書かれたものが本当に多かったんです。これまでも手紙をいただくことはありましたが、今回は明らかに規模が違いました。読者の方とこんなに幸福な形でつながることのできる機会はめったにないだろうと思い、続編にトライすることにしました」
鎌倉の奥に静かにたたずむツバキ文具店。ここは文具店であると同時に、知る人ぞ知る「代書」をしてくれる場所でもあった。どうしても伝えたい思いが、相手がいるのにうまく言葉を紡ぐことができない、そんな人たちのために主人公の鳩子はその人に代わって筆を執る。本書では、登場人物たちとの関係を継承しつつ、鳩子自身の素顔がより深く描かれ、そして「あ、そうくるか!」という新たな関係が築かれる。
「前作よりも少しプライベートに迫ってみました。鳩子自身がどう成長していくのか、私自身、書いていてとても楽しみでした。私は小説であっても、なにかしら読んだ人の生活に役立つ、広い意味での実用書でありたいと常に考えているんです。その思いには変わりありません」
繊細な線と点で描かれたしゅんしゅんさんのカバー装画と、依頼者ごとに書体を書き分ける萱谷恵子さんの直筆の手紙(作中の手紙はすべて手書きのビジュアル付き)、お二人との共同作業は今回も健在だ。
「続けてお願いできたことも最高に幸せでした。萱谷さんは男性でも女性でも、子供の字でも書き分けることができる特殊な才能の持ち主です。お話をうかがっていると、俳優さんが役になりきる時のように、何度もなじむまでその人物の字を書いてみるそうです。もし私が萱谷さんのことを知らず、そして萱谷さんが快諾してくださらなかったらこの物語は生まれていなかったと思います」
場所が鎌倉という点も、物語の小宇宙として機能している。
「東京から近いのに、空気が全然違いますよね。海と山があり、回覧板とか、近所同士のおすそ分けとか、そんな付き合いが自然に生まれる世界。人と人との適度な距離感が心地よいです。この文具店がどこにあったら一番しっくりくるかと考えたら、鎌倉でした」
読者の手紙から今作が生まれたように、早くも3作目を待望する手紙は数多く寄せられている。さあ小川さん、どうします?
「正直、今はまだ何も構想はありません。しかし、もし長い目で皆さんが待ってくださるなら、自然な流れで今後も書き継いでいくことができるような予感はしています」(構成・北條一浩)
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小川糸(おがわ・いと)
1973年、山形県生まれ。海外で数々の賞に輝いたデビュー作『食堂かたつむり』がベストセラーに。著作に『喋々喃々』『にじいろガーデン』『サーカスの夜に』など。『ツバキ文具店』は2017年本屋大賞4位となり、NHKでドラマ化された
<サンデー毎日 2017年12月17日号より>