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余録

「たま風や抜錨指令滞り」は…

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 「たま風や抜(ばつ)錨(びょう)指令滞(とどこお)り」は大石悦子(おおいし・えつこ)さんの句。この「たま風」は冬の日本海側で吹く北西の季節風の福井県以北での呼び名である。「たば風」ともいうのは、突然たばになって吹く強烈な風勢ゆえらしい▲民俗学者の柳田国男(やなぎた・くにお)はこの言葉がどの地方でも船頭の恐れる「悪い風」という意味を帯びていると説く。そしてたまとは霊魂のことで、たま風ははるか西北の悪霊が吹かせる風だと解釈している。なるほど抜錨指令も滞るわけである▲だがそんな季節風吹き荒れる日本海に老朽化した木造船の出漁指令をためらわない独裁国家もある。称して「冬季漁獲戦闘」だそうな。戦闘ならば戦死者が出るのもはなから承知というわけで、こちらの方が悪霊の仕業かと見まがう▲日本海沿岸の各地で北朝鮮のものとみられる漁船の漂着や漂流が相次いでいる。今年はすでに60件を超え、18人の遺体を収容、40人以上を保護した。とくに先月は前年の7倍となる28件という急増ぶりで、上陸しての盗みも発覚した▲沿岸住民には何とも不安な話である。聞けば北朝鮮は外貨獲得のために近海の漁場を中国に譲渡し、木造老朽船で日本の排他的経済水域にまで出漁してきているらしい。経済制裁で燃料も不足するなか、海が荒れずとも命がけである▲その操業する日本の経済水域にミサイルを降らせる北の独裁者だ。理不尽(りふじん)はむろん体制の強さではなく、弱さの表れに違いない。米国との戦略的な対等を求めるよろいの下から無残にのぞく「粘土の足」である。

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