メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『ママを殺した』『日本史の内幕』ほか

今週の新刊

◆『ママを殺した』藤真利子・著(幻冬舎/税別1300円)

 50代60代の男同士で飲んでいる時、「そういえば藤真利子はどうしているだろう」と話題になった。1970年代末から80年代、まさしく輝く女優だったが、しばらくその名を聞かなかった。

 2016年11月の母の死まで、藤は介護を11年も続けていた。その記録『ママを殺した』とは物騒なタイトルだが、真意は読めばわかる。父・藤原審爾は流行作家だが、ほかに家があり別居。二人暮らしの母娘は、陰りのある事情で強く結びついていた。

 著者は女子大在学中に女優として芸能界デビュー。映画、テレビドラマ、舞台と数々の受賞歴を積み重ねた。母が1982年に乳がんを発病し、「私は母がいないと生きていけないんです!」と執刀医に訴えた。再び乳がん、脳梗塞(こうそく)と続き、仕事を放って一心同体の介護体験は凄(すさ)まじいの一語。

 その「壮絶な最期」に「死なせてしまったと言うよりは……/私が殺した」という著者の思いを、読者はどう受け止めるだろう。

◆『日本史の内幕』磯田道史・著(中公新書/税別840円)

 来春の大河ドラマ「西郷(せご)どん」の時代考証、「英雄たちの選択」司会など幅広く活躍中の人気歴史学者が磯田道史(みちふみ)。『日本史の内幕』は、培われた知識の確かなバックボーンを証明する好著。

 日本史の内幕を知りたいなら、古文書を読むしかない。そう冒頭で宣言する本書では、「戦国女性の素顔から幕末・近代の謎まで」(副題)、古文書の解読から、歴史の新事実を発掘している。

 感心するのは、戦国時代から江戸、近代まで広げる網の広さと、日本全国の古書店、骨董(こっとう)店を逍遥(しょうよう)し、珍品を発掘していく行動力だ。東京・神田の古書店では、美貌の水戸藩士の文書がきっかけで「ワケありな子孫たち」を次々と発見。京都「聚雲堂(しゅううんどう)」(古書画屋)では、元薩摩藩士の短冊を購入。そこから兜(かぶと)に香を焚(た)く奇跡のような実験に結びついた。

 古文書漁(あさ)りで興奮する著者は、まるで虫取りに夢中になる夏休みの小学生みたいだ。そして今日も「歴史バカ」が歴史街道をゆく。

◆『映画を聴きましょう』細野晴臣・著(キネマ旬報社/税別2000円)

 細野晴臣『映画を聴きましょう』は「観ましょう」の誤りではない。著者がこれまで親しんだ映画音楽のエッセーなのだ。黒澤明「用心棒」のサウンドトラックはLPレコードとして発売され、ヒットした。「渚にて」のメインテーマはシングル盤になった。映画音楽が大衆にいかに浸透していたかがわかる。「スター・ウォーズ」などで知られるジョン・ウィリアムズの名がスクリーンに登場すると、客席から拍手が起こったという証言も、すべて体験に根ざしている。映画音楽から映画を観る面白さ。

◆『夢みる昭和語』女性建築技術者の会・編著(三省堂/税別1900円)

 女性建築技術者の会編著『夢みる昭和語』は、昭和に少女時代を過ごした同会員たちの思い出を、2000語の言葉に分類、辞書風にまとめあげた。「アカギレとヒビ」は冬の風物。「ももの花」を塗って包帯を巻いた。かつては野犬が多く、夜になると「犬の遠吠え」が聞こえ、寂しさがつのった。「チッキで送る」鉄道の荷物、「ちゃぶ台をひっくり返す」短気なお父さん、大切なものは何でも「仏壇にあげておく」習慣など、懸命に生きた庶民の暮らしが匂いまで伝わってくる。

◆『イシマル書房 編集部』平岡陽明・著(ハルキ文庫/税別600円)

 平岡陽明『イシマル書房 編集部』がいいぞ。東京・神保町のイシマル書房は、石丸夫妻が切り盛りする小さな出版社だ。半年以内に結果が出ないと身売りという崖っぷちにある。そこへネット書評のカリスマ・満島絢子が臨時採用された。石丸の要請で、助っ人として出向いたのは引退した元文芸編集者・岩田鉄夫。そんな中、過去に挫折した桃色小説専門の作家に、売れる時代小説書き下ろしのプロジェクトが……。「野球狂の詩(うた)」ならぬ「編集狂の詩」の熱い筋立てに、久しぶりに心が躍った。

-----

岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』など

<サンデー毎日 2017年12月24日号より>

おすすめ記事

毎日新聞のアカウント

話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. 吉本興業、宮迫さんらの処分撤回 岡本社長、会見で謝罪
  2. 加藤浩次さん、大崎・岡本両氏退陣なければ「吉本やめる」
  3. 吉本・岡本社長一問一答(1) 「つらい思いさせた、耳かたむけたい」
  4. エンタメノート 「吉本が悪い」果たして本当か 宮迫さん・亮さんの涙もう見たくない
  5. ORICON NEWS ビートたけし、吉本興業を痛烈批判「だったら雇うなよ。最低保証くらいしろよ」

編集部のオススメ記事

のマークについて

毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです