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「おひとりファースト」の時代へ~ミドルおひとり女子が創る、大独身マーケット

「『おひとりウーマン』消費!」出版記念 特別対談 牛窪恵×山田昌弘(1) 女性が結婚できる・できないは「運」しか関係ない?

 12月8日に発売された、新刊「『おひとりウーマン』消費! 巨大市場を支配する40・50代パワー」(毎日新聞出版)で、40・50代の独身女性のリアルを描いた、マーケティングライターの牛窪恵さん(以下、牛窪)と、10月13日に著書「底辺への競争 格差放置社会ニッポンの末路」(朝日新聞出版)で、下流に転落しないための競争(=「底辺への競争」)を展開する日本社会を鋭く斬った、社会学者の山田昌弘さん(山田)。今回からは2回連続で、このお二人が、ミドル年齢の「おひとり様」の現状と未来に迫ります。

    女性が結婚できる・できないは「運」しか関係ない?

    牛窪恵さん

     牛窪 先生、お久しぶりです。早速なんですが、私は40・50代の自立した女性を「おひとりウーマン」と呼んでいて、長年、独身男性との違いについても調査研究してきました。山田先生はご著書の「『婚活』時代」(ディスカヴァー携書/白河桃子氏と共著)をはじめ、独身男女の事情にも、とてもお詳しいですよね。先生からご覧になって、近年の独身女性(おもに40代以上)の傾向は、いかがでしょうか。

    山田 ひと言で言えば、女性の独身者は男性に比べて、「これ」といった特徴がないんです。30年前の1985年ごろまでは、4年制大学を出た女性が結婚しにくいという傾向がありました。ただ、そのころの調査対象(当時50代)で4大卒の女性は、わずか1割弱ですから。進学率が高まった現在では、学歴と結婚の関係はほぼ消えてしまいました。

    牛窪 確かに男性の場合は、非正規雇用で年収が一定水準に達しないほど、圧倒的に未婚率が高い傾向にあります。女性が彼らを選ばないというより、「どうせ僕なんか」と、男性側が婚活市場に出てこないんですよね。では女性の場合、何が「結婚する、しない」を左右していると思われますか。

    山田 端的に言って、結婚できたかそうでないかは、ほとんど「運」しか関係ないでしょう。

    牛窪 運ですか?! 学歴や年収、身長などに関係なく? バブルの時代は、「3高(高学歴、高年収、高身長)」の男性を狙え、とも言われましたが。

    山田 過去に、身長と未婚率の相関を調べたことがあるのです。男性は予想どおり、高身長ほど既婚者が多かったものの、女性ではほとんど相関が見られませんでした。実は見た目についても、ある結婚相談所の調査研究があります。複数の人間が判定して、ルックスの良しあしと婚姻率の相関を見るという方法です。すると男性では、顔以外の条件がほぼ同じだと、圧倒的に「イケメン」のほうが既婚率が高かったのに、女性ではこれもまったく差が出ませんでした。

    牛窪 つまり、10点満点の女性も、1、2点と評価された女性も、既婚率はほとんど変わらなかった?

    社会学者の山田昌弘さん

    山田 そうです。厳密には、結婚の前段階で「交際したい」など、異性から声がかかる確率は、やはり美人のほうが高かったのですが、いざ結婚となると差は見られなかった。女性が結婚する、しないは「運」ぐらいしか関係ない、と申し上げたのもそのせいで、いわば女性のおひとり様は「自己責任ゼロ」なわけです。また既婚・未婚に限らず、女性の人生は、夫や子ども、親しだいの部分も大きい。ある日突然、夫が失業したり勤務先の会社が倒産したりするのは彼女たちの責任ではないし、予測もつかない。だから防ぐこともできないのですよ。

    牛窪 なるほど、ちょっとショックです。親の介護もそうですね。両親がいつ要介護になり、それが何年かかるかなど、予測できないですものね。

    山田 そう、男性はまだ仕事があるとか、男だからという理由で、介護負担を避けることもしやすい。けれど日本の社会には、まだ「女性が介護役」という認識が残っています。自分の責任ではないことについて責任を負わされるのが、いまのミドル女性ですよね。ただ、悲観すべきことばかりでもありません。逆のケースもありますから。

    牛窪 というと? 一発逆転というか、運よく「思いがけない幸せが降ってくる」という……?

    山田 そうです。数年前、ある独身男性(60代半ばで前妻と死別)と初婚で結婚した、というミドル女性に話を聞いたのですが、彼はもう引退後で、お金はいくらでも使っていいと言うし、家事も手伝ってくれて、疲れたらお茶もいれてくれるそうなんですね。それまでずっと一人で頑張ってきた彼女が、ある日突然、夫と世間話をしたり、一緒に趣味を楽しんだりできる環境になって、生活が一変した。「なんでこんな幸せが、急に私に降ってくるんだろう」という感じですよね。

    「カレーは辛い」がなくなり、価値観のすり合わせが必要に

    牛窪恵さん

    牛窪 いまの先生のお話を聞くと、世のおひとりウーマンは元気をもらえるんじゃないでしょうか。一方で、女性も含めて「生涯未婚率」は上がり続けていますよね。婚活ブームの後も、なぜこの傾向が続いているのか。ひとつには、これも先生が90年代に指摘された、「パラサイト・シングル」、すなわち結婚まで親と同居する未婚女性と関係があるのではないか、とも思うのですが。

    山田 確かに現在、40代の独身女性でも6割ほどは、親と同居しています。同居相手が親であれば、いわゆる「価値観のすり合わせ」には苦労しない。一般に、親子の考え方は似通っていますから。他人同士のように、わざわざ価値観をすり合わせる必要がありません。楽なのです。昔は、他人同士の男女でも、まだ楽でした。社会に、結婚相手に求める「スタンダード」があったので、価値観のすり合わせも最小限で済んだわけです。たとえば、「夫は仕事、妻は家事」がデフォルトだった時代は、料理したことがない女性でも、「料理の腕をあげれば」など、努力すれば良かった。でもいまは、結婚した後に共働きするか、専業主婦になるか、あるいはパートなのか自由業でやるのかなど、幅広く選べる。「多様化」した分、すり合わせが大変になったのです。

    牛窪 なるほど。たとえば、「カレーは辛いのが当たり前」という概念が取っ払われてしまうと、「辛いカレーにしますか」「それとも甘いカレーにしますか」など、「そもそも論」の根底からすり合わせていかなきゃならない、というのと同じで……。

    山田 さすが牛窪さん。わかりやすい例えですね。いまの時代はデフォルトがない分、恋愛や結婚も、自分たちでネゴシエートして決めなきゃいけないわけです。5年ほど前から、スマホやLINEが普及し始めて、新たな出会いやダイバーシティーが進むのかと思ったら、むしろ逆でした。価値観が似通った「昔なじみ」の友達と、ずっとつながり続けることが可能になった分、価値観が違う相手とはつながりにくい社会になった。

    牛窪 確かに、SNSでつながれることで、一見すると出会いが増えたように感じますが、実はそうとは言えない。「ハッシュタグ(#)」やコミュニティー名で検索して、瞬時に似た価値観の人を探せるから、わざわざ違う価値観の人とつながるのを「面倒」だと感じるようになりましたよね。でも若いうちはまだいいですが、中高年以降、いわゆる「ぼっち」を避けるためには、やはりある程度価値観が違う人たちとも、すり合わせが必要になってくると思うんですが。

    山田 そのためには日ごろから、多少なりとも「人を許す」訓練をする必要があります。ダイバーシティーと言いながら、世間からずれた人に対してバッシングが起きるような社会は問題です。

    牛窪 でも、先ほど先生がおっしゃったように、いまの時代、何をもってスタンダードとするかが曖昧ですから、「世間からずれた」の定義も、微妙ですよね。多数派になれば、世間的に市民権が得られるとすると、おひとり様が増えれば、ビジネスではシングルを優遇しようじゃないかという「独身ファースト」の視点も出てくるかもしれない。

    山田 なくはないでしょうね。何がきっかけで流れが変わるかは、分かりませんから。以前は多少恥ずかしかった「できちゃった結婚」も、いまではすっかり当たり前になりました。夫婦別姓に対してはいまだにバッシングが強いのに、「性別変更」に関しては、あっという間に法律(性同一障害の「特例法」)が通ったでしょう。日本の社会の価値観って、予想がつきにくいんですよ。

    おひとりウーマンの未来は「仕事」と「健康」しだい!?

    牛窪 とはいえ、現行の社会保障制度では、独身女性に対する保障はまだまだ、ですよね。日本の社会で「おひとり様」として生きる女性たちには、どんな心構えが必要でしょうか。

    山田 いろいろなケースに備えて、シミュレーションしておいた方がいいと思います。先ほどもお話ししたとおり、女性の場合は「自己責任」とは乖離(かいり)した他者(夫や子ども、親など)によって、人生が変わることも多いので。そこで大切になってくるのは、人脈作りも含めた「仕事」の能力をつけておくことです。いつでもどこでも働けて、ある程度の収入を得られれば、外的要因には左右されにくい。最大のリスクヘッジになります。

    牛窪 あとは、強いて言えば「健康」でしょうか。

    社会学者の山田昌弘さん

    山田 そう。健康でこそ働き続けられるし、ある程度の収入も得られる。何もガツガツ稼がなくても、「自分のやりたいことをやれて、最低限のお金さえあれば、人生楽しい」というのが、ヨーロッパやアメリカ人の考え方ですよね。

    牛窪 確かにそうですね。先生とお話ししていて、日本、というか私自身が、まだ「こうでなければ」という古い概念に捉われていることが分かりました。次回は、おひとりウーマンが10年後、20年後に、社会で孤立しないためにどうすればいいかなど、伺わせてください。

    山田昌弘(やまだ・まさひろ) 1957年生まれ。東京大学文学部卒業。東大大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。東京学芸大学教授を経る。専門は家族社会学。親と同居して独身生活を続ける若者をパラサイト・シングルと呼び、格差社会という言葉を浸透させた。婚活ブームの火付け役でもあり、最新の独身男女事情にも詳しい

    「おひとりウーマン」消費! 巨大市場を支配する40・50代パワー(毎日新聞出版・1450円)

    「『おひとりウーマン』消費! 巨大市場を支配する40・50代パワー」(毎日新聞出版)

     コラムの筆者・牛窪恵さんが40・50代の独身女性や関連企業約40社を半年以上取材し執筆した最新刊「『おひとりウーマン』消費! 巨大市場を支配する40・50代パワー」が毎日新聞出版から発売されます。「おひとりウーマン」とは、みずから働き、気持ちのうえでも自立した、40、50代の大人の独身女性。「おひとりさまマーケット」「草食系男子」などの流行語を世に広め、数々のテレビ番組のコメンテーター出演でもおなじみの著者が、13年間ウォッチングを続けてきた「おひとりウーマン」の消費志向やライフスタイル、恋愛や結婚願望に深く迫ります。amazonでの購入はこちらからどうぞ。

    牛窪恵

    世代・トレンド評論家。マーケティングライター。インフィニティ代表取締役。同志社大学・創造経済研究センター「ビッグデータ解析研究会」部員。現在、立教大学大学院(MBA)通学中。 オフィシャルブログ:アメーバ公式ブログ「牛窪恵の「気分はバブリ~♪」」(http://ameblo.jp/megumi-ushikubo/
    財務省 財政制度等審議会専門委員、内閣府「経済財政諮問会議」政策コメンテーターほか、官庁関係の要職多数。
    1968年東京生まれ。日大芸術学部 映画学科(脚本)卒業後、大手出版社に入社。フリーライターを経て、2001年4月、マーケティングを中心に行う有限会社インフィニティを設立。
    トレンド、マーケティング関連の著書多数。「おひとりさま(マーケット)」(05年)、「草食系(男子)」(09年)は、新語・流行語大賞に最終ノミネート。テレビコメンテーターとしても活躍中。
    【代表作】
    『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(日本経済新聞社)
    『独身王子に聞け!』(日本経済新聞社)
    『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』(講談社)
    『「バブル女」という日本の資産』(世界文化社)
    『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
    『「男損(だんそん)」の時代』(潮出版社)
    『「おひとりウーマン」消費! 巨大市場を支配する40・50代パワー』(毎日新聞出版)ほか多数

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