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「おひとりファースト」の時代へ~ミドルおひとり女子が創る、大独身マーケット

「『おひとりウーマン』消費!」出版記念 特別対談 牛窪恵×山田昌弘(2) 「独身ファースト」の時代は、ある日突然やって来る!

 前回、40・50代の自立した独身女性「おひとりウーマン」の傾向を中心に、現代社会における「おひとり様」の立ち位置や心構えについて、対談形式で数々の提言を下さった、社会学者の山田昌弘先生(以下、山田)と、マーケティングライターの牛窪恵さん(以下、牛窪)。今回は、おひとり様のリスクヘッジや終活、社会との向き合い方について掘り下げていただきます。

    日本は「枠」から外れた人に冷たい社会

    牛窪恵さん

    牛窪 前回の対談では、「女性のおひとり様は、自己責任ゼロ」だという、衝撃のお話を伺いました。女性は男性以上に、夫や子ども、親の状況などによって人生を左右されると。とくに親の介護って、いつ降りかかるか分かりませんよね。取材したおひとりウーマンの中にも、「ある日突然、親が自宅内で転倒して、まったく予期せぬ状況で介護生活が始まった」という例もありました。予測がつかなければ、防御もしづらい。難しい問題です。

    山田 親に健康食品を食べろとか、痴呆症にならないように努力してくれと言ったところで、ちゃんと守ってくれるかどうかわからないし、予測がつきませんよね。子育ても、ほとんどの親は「人並みに就職して結婚してほしい」と思っていますが、当の子どもがそうなるとは限らない。親がコントロールできませんからね。

    牛窪 また、前回の最後では「おひとり様として生きていくためには、仕事と健康が大きなキーワード」だと伺いました。日本はアメリカなどに比べると、医療や社会保障制度が手厚いものの、職場で一度大きく体を壊すと、会社を辞めざるを得ない男女も多いですよね。

    山田 日本は、病気になった人や枠から外れた人に対して、「冷たい社会」だと感じます。医療制度は平等で充実しているのに、病気になると収入が減り、ある日突然、中流から下流に転落してしまう人も少なくない。保育園もそうですよね。あんなに安くて質のいい保育士が、少人数で子どもを見てくれる国は、世界中どこにもありません。でも、運悪くそこに入れなかった人や、非正規雇用の人たちなどは、その恩恵にあずかりにくい。そうなりたくないから、私が言う「底辺への競争」が繰り広げられるわけです。

    牛窪 とすると、こと「介護」についても同じことが言えるでしょうか。おひとりウーマン世代は、いわゆる「2025年問題」(団塊の世代が後期高齢者となり、医療や介護の現場が混乱すると見られる問題)のころ、親の介護に直面する女性も多い世代なのですが。

    山田 はい。私自身、日本の介護制度は素晴らしく、世界に誇れるものだと思っています。というのも、私の父は以前、サービス付き高齢者向け住宅に入っていましたが、そのころは何かにつけてお金もかかり、ちょっとしたことで子である私が呼び出される機会も多かったのです。でもその後、運よく特別養護老人ホームに入れたら、驚くほど楽になれました。つまり、運良く既存の制度の恩恵を受けられれば、安心して生きられる。でも逆に、運悪くその制度の恩恵を享受できなければ、大変な毎日を強いられる社会だと言えるでしょう。

    牛窪 ということは、「結婚」についても同じようなことが……?

    山田 そうです。正社員として安定した企業に勤める、優しい夫がいれば、しかも離婚せずにそのまま老後を迎えられれば、普通に年金も受給できて、中流の生活を保てる。その意味では、素晴らしい国ですよね。

    終活に熱心な女性ほど「孤独死」を防げる?

    牛窪 でも、既存の型にハマれなければ、不幸になるリスクも高いわけですよね。今回のおひとりウーマンへの取材では、「孤独死(孤立死)」を懸念する声も目立ちました。先生も、「『家族』難民」(朝日新聞出版)など、過去のご著書で「孤立死」についておっしゃっていますよね。いまの状況でいくと、約25年後の2040年ごろには、年間20万人近くが孤立死することになるだろうと……。もっとも女性は、男性より「横」のつながりがありますから、多少は孤立死を防げるでしょうか。

    山田 はい、おそらく男性よりは防げますね。たとえば最近は、終末活動(いわゆる「終活」)をする女性をよく見かけるようになりました。何かあったときのために、この人にこういうふうに頼んでおこうとか、こっちがダメならあっちに頼んでおこうとか。ある程度、お金があってこそできる側面もありますが。

    牛窪 今回取材したおひとりウーマンの中には、非正規雇用でいつクビになるか分からない、あと10年は働き続けられないだろう、と不安がる独身女性も何人かいました。先生がおっしゃる「パラサイト・シングル」も多かったのですが、親御さんが元気なうちはまだいいとして、倒れてしまったら介護を強いられるかもしれない。しかもそこで仕事を辞めて、将来も国民年金しか入ってこないとなると、いまの社会保障制度下では、生活は相当厳しいですよね。

    社会学者の山田昌弘さん

    山田 厳しいですよ、そもそも日本は、「世間体社会」ですから。生活の最低レベルを保って「飢え死にしなければいい」というわけではなく、ある程度のプライドを持って生きることが大事なわけです。一定の生活水準を保てないと、友だちもいなくなってしまう。「世間体が悪いから、表に出たくない」と、つい自宅にこもりがちになります。

    牛窪 男女で言うと、男性のひとり暮らしのほうが、その傾向は強い?

    山田 はい。一般に男性は、女性以上に「自分の惨めな姿をさらしたくない」と考えますから。また、前回もお話ししたとおり、女性は男性以上に「自己責任ゼロ」でそう(下流に)なる可能性が高いので、自分が置かれた状況も「運が悪かったですね」と同情されることもある。でも男性は「こうなったのは自分のせいだ」と、自己嫌悪に陥りますから。高齢者同士のつきあいでも、自分ばかりおごられたり、お金を出せなかったりすると、もうダメなんです。周りからも言われるし、それぐらいなら家にこもっていた方がいいと思ってしまう。

    牛窪 にもかかわらず、政府は「元気な高齢者は、外に出ましょう」と呼びかけていますよね。

    山田 お金がない状態で外に出ると、いかに惨めな思いを味わうかということを、役所の人は分かっていないのでしょう。とくに、人生の早い時期から「貧困」に近い状態の人は、まだ慣れていますが、シニア年齢になって突然、「底辺」に落ちた人は、本当につらい。中流生活の記憶がある人ほどつらいですよね。

    「独身ファースト」の時代は、ある日突然やって来る!

    牛窪恵さん

    牛窪 以前、先生と別件で対談させていただいたとき、先生は「格差は一度開いたら、なかなか元に戻すことは難しい」とおっしゃっていた記憶があります。今後、格差が解消されない、国の社会保障も現行と大きくは変わらないとなると、地域やコミュニティー間での支え合いに頼る部分が大きいかと思うのですが。その辺りは、どうお考えですか。

    山田 日本は、自分の仲間内、内側に入った人には、とても親切な国です。でも、自分の家族や身内以外の人に対しては、無関心で冷たい。自分と価値観の違う、仲間以外の人には不親切だと感じます。たとえば私が欧米で、郊外の電車に乗っていれば、「どこから来たんだい?」など、結構な割合で向こうから立ち話で話しかけてきますよ。また中国の北京では、高齢の女性を助ける若い男性を見ました。女性が重そうな荷物を持って階段を上がろうとしていたら、後ろから若い男性が寄ってきて、パッと荷物を持って一緒に運んであげた。そして「はい」と渡して去って行った。日本ではまず見られない光景ですよね。

    牛窪 確かにそうですね。最近は「ご近所トラブル」関連でも、「学校や保育園が近くにあると、子どもが騒いでうるさい」とか、「盆踊りの音楽が耳障りだから、音を鳴らさずにヘッドホンをつけて盆踊りを踊ろう」とか、自分と価値観が違う人たちに、あまりに冷たい気がします。

    山田 職場でも、日本は多様化を認めているとは言いがたいでしょう。以前、オランダで調査したときも、「長く働きたい人は働いていいですよ」「でも、週3日勤務にしたい人は、してもいいですよ」と。子育て期間も、育休を取りながらゆっくりしたい人もいれば、子育てしながらキャリアを積みたい人もいる。そういう多様性が認められる社会なんです。また欧米はそういうとき、家事をアウトソーシングする「メイド」を雇うことができるので。

    牛窪 なるほど。日本の場合、移民を積極的に認めていないせいもありますが、それ以上に「妻たる女性が、他人に家事を任せるなんて」という周りの目もありますよね。

    以前、取材の関係もあって、料理の「家事代行サービス」をお願いしたことがあるんです。それをSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)にアップしたら、すごい批判が来てしまって……、それも女性から。

    社会学者の山田昌弘さん

    山田 それは来ますよ。自分(その女性)は家事に対して努力しているのに、ほかの人が努力しないことが許せない。価値観が違う人に対して、冷たいわけですから。

    牛窪 だとすると、家事代行も含めて、働くおひとりウーマンが「本当は、もっとあったらいいのに」と思っている新たなサービスも、なかなか広がっていかないでしょうか。

    山田 そうとは限りません。前回もお話ししたとおり、なにがきっかけで流れが変わるかというのは、なかなか予測がつかないんです。30年前、一般家庭で「家事」がどうなされているかという調査の一環で、みそ汁のだしの調査をしました。そのとき、「家事は愛情だ」と考える人は、やはりインスタントのだしを使う人を「邪道」だと見ていました。楽をしてインスタントを使うなんて、許せないわけです。でもそういう人たちも、いざみんなが使い始めると、「だしから取るの?」「面倒でしょ」となる。何かのきっかけでそちらが多数派になると、むしろだしから取る人が「珍しい人」になるのです。

    牛窪 先生にいろいろお話を伺って、いまの日本は多様化を許しにくい社会なのだと実感しました。でも一方で、いつか何かのきっかけで、「独身ファースト」の視点が当たり前の世の中になるかもしれない。そのときに向けて、私たち既婚者や社会は、どうあるべきでしょうか。

    山田 状況は、一気には変わらないかもしれません。現に「○○でなければ」という保守的な概念は、いまの若い学生にもあるのです。

    それでも時代の動きに合わせて、考え方の「内と外」、つまり自分が当然と思う概念(内)と、他者が当然と思う概念(外)の「境目(差)」を緩めておくことが大切だと思います。

    牛窪 そうですよね、何がきっかけで新しい価値観、おひとり様をいま以上に認める社会や制度が到来するか分からないですもんね。……貴重なお話を、どうもありがとうございました!

    山田昌弘(やまだ・まさひろ) 1957年生まれ。東京大学文学部卒業。東大大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。東京学芸大学教授を経る。専門は家族社会学。親と同居して独身生活を続ける若者をパラサイト・シングルと呼び、格差社会という言葉を浸透させた。婚活ブームの火付け役でもあり、最新の独身男女事情にも詳しい

    牛窪恵さん(左)と社会学者の山田昌弘さん
    「おひとりウーマン」消費! 巨大市場を支配する40・50代パワー(毎日新聞出版・1450円)

    「『おひとりウーマン』消費! 巨大市場を支配する40・50代パワー」(毎日新聞出版)

     コラムの筆者・牛窪恵さんが40・50代の独身女性や関連企業約40社を半年以上取材し執筆した最新刊「『おひとりウーマン』消費! 巨大市場を支配する40・50代パワー」が毎日新聞出版から発売されます。「おひとりウーマン」とは、みずから働き、気持ちのうえでも自立した、40、50代の大人の独身女性。「おひとりさまマーケット」「草食系男子」などの流行語を世に広め、数々のテレビ番組のコメンテーター出演でもおなじみの著者が、13年間ウォッチングを続けてきた「おひとりウーマン」の消費志向やライフスタイル、恋愛や結婚願望に深く迫ります。amazonでの購入はこちらからどうぞ。

    牛窪恵

    世代・トレンド評論家。マーケティングライター。インフィニティ代表取締役。同志社大学・創造経済研究センター「ビッグデータ解析研究会」部員。現在、立教大学大学院(MBA)通学中。 オフィシャルブログ:アメーバ公式ブログ「牛窪恵の「気分はバブリ~♪」」(http://ameblo.jp/megumi-ushikubo/
    財務省 財政制度等審議会専門委員、内閣府「経済財政諮問会議」政策コメンテーターほか、官庁関係の要職多数。
    1968年東京生まれ。日大芸術学部 映画学科(脚本)卒業後、大手出版社に入社。フリーライターを経て、2001年4月、マーケティングを中心に行う有限会社インフィニティを設立。
    トレンド、マーケティング関連の著書多数。「おひとりさま(マーケット)」(05年)、「草食系(男子)」(09年)は、新語・流行語大賞に最終ノミネート。テレビコメンテーターとしても活躍中。
    【代表作】
    『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(日本経済新聞社)
    『独身王子に聞け!』(日本経済新聞社)
    『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』(講談社)
    『「バブル女」という日本の資産』(世界文化社)
    『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
    『「男損(だんそん)」の時代』(潮出版社)
    『「おひとりウーマン」消費! 巨大市場を支配する40・50代パワー』(毎日新聞出版)ほか多数

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