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我らが少女A

2017年8月1日から高村薫さんによる新連載「我らが少女A」が始まりました。合田雄一郎刑事シリーズ最新作です。東京郊外で起きた殺人事件。過去と現在が交錯し、土地と人間が溶け合う中で、現代が浮かび上がります。

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我らが少女A

/136 第4章 16=高村薫 多田和博・挿画監修

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 夢にしてはリアル過ぎ、現実にしては意味不明に過ぎる浅井忍の出現に、本人が消えたあとも小野はしばし立ちすくんだまま動けない。いまごろ浅井は何をしに来た? 十二年前自分をチクった犯人を捜しにきたのだろうか? 一昨日会社をクビになって野に放たれたとたん、別件逮捕やストーカーのレッテルの汚名返上に乗り出したのか? いや、喋(しゃべ)り方や落ち着きのない様子は昔と大差なかったし、そんな執念深い行動ができるとは思えないが、それにしても自分にとってはけっして歓迎できる事態ではない。知らぬ間に胃がぎゅっと縮まり、小野は助役に見られているのも気づかずに顔をしかめる。

 顔色が悪いな。助役が声をかけてきて、いやちょっと胃が--とごまかすと、最近は男もマリッジブルーになるらしいよ、助役は言い、ひょっとしたら浅井への過剰反応はそれだろうかと、小野も考えてみる。冷静に考えてみれば、多摩川線沿線は浅井にとっても地元と言えなくもないし、会社を辞めて人生をリセットするのに、昔の同級生たちを訪ねるというのは、べつにおかしなことではない。それに何よりも、自分は浅井を警察に売った…

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