SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『TEKIYA』『高田文夫と松村邦洋の東京右側「笑芸」…』ほか

  • はてなブックマーク
  • メール
  • 印刷

今週の新刊

◆『TEKIYA 香具師』渡辺眸・著(地湧社/税別2900円)

 今や「男らしい」などという言葉が使いにくくなった。しかし、ここでは「この男たちを見よ!」と言わせていただく。1960年代後半、東京の「テキヤ」(露天商)を追い続けた写真集『TEKIYA 香具師』が出た。

 写真家の渡辺眸(ひとみ)は女性、しかも当時大学生。卒業制作として追い続けたテーマが「香具師」だった。現在でも祭りで露店は出る。しかし販売人は、一般人と変わらぬ風体で、本書に写る白い上っ張り、腹巻き、雪駄(せった)、サングラス、ねじり鉢巻き、入れ墨とは違う。

 なかには小指なしの男もいる。痩(こ)けた頬、鋭い目つき、実用本位の肉体には、どこか詩情さえ感じる。生きている証しとしての男たちがいる。ヤクザの襲名披露の場面など、ピントは甘いが、息をのむ迫真性で、貴重な記録だ。

 当時、女子大生だった著者は、テキヤの親分から「三号さんに、ならないか」と誘われたという。みんな顔はいかついが、きっと気のいい男たちだったのであろう。

◆『高田文夫と松村邦洋の東京右側「笑芸」さんぽ』いち・にの・さんぽ会編(講談社/税別1200円)

 高田文夫と松村邦洋には、意外な共通点があった。ともに「心肺停止」で死線を彷徨(さまよ)った。かくして「心臓とめるな、ホックをとめろ」を合言葉に、仲間を加えた5人の東京散歩が始まった。

 いち・にの・さんぽ会編『高田文夫と松村邦洋の東京右側「笑芸」さんぽ』は、高田が出演するラジオ番組に合わせ集合は有楽町。江戸っ子の高田が、意外に知らない東京の下町を歩く。「笑芸にちなんだ名所・史跡・名舖を訪ねる」のが原則だが、この2人だから、その道中の陽気なこと。

 深川・芭蕉像の前でカレーパンを食べながら休憩。高田の命で句作に励む松村、ついつい「カレーパン……」と詠み出し、一同大爆笑の場面あり。都電で町屋へ、思わず「昔、タケちゃん(注/北野武)が住んでてね……」と思い出話にも花が咲く。

 神田、浜松町、門前仲町、浅草橋、吉原、北千住、水天宮と、東京には、まだ江戸が残っている。厳選コースとマップつき。

◆『TOKYO海月(くらげ)通信』中野翠・著(毎日新聞出版/税別1400円)

 本誌長期連載1年分が1冊にまとまる頃、師走を感じる。中野翠『TOKYO海月(くらげ)通信』を読めば、映画、テレビ、本、娯楽、風俗のあれこれが甦(よみがえ)る。トランプ勝利に愕然(がくぜん)とし、同時に美少年の息子バロン君に唾をつけるあたりが中野流。文句なしの傑作「ラ・ラ・ランド」にハリウッド映画の「ケンカ仲良し」パターンを見抜き、終盤に「無常観」を感じる見巧者(みごうしゃ)ぶりも健在。稀勢の里の勝敗に一喜一憂し、漫才ではナイツ、U字工事ほか、ペンギンズに注目と好奇心は全開のクロニクル。

◆『俳人風狂列伝』石川桂郎・著(中公文庫/税別1000円)

 『俳人風狂列伝』に登場する11人の個性は強烈だ。著者・石川桂郎は家業の理髪業を続けながら、多くの俳句雑誌を編集した。山頭火、放哉など有名な「風狂」もいれば、心猿、癖三酔、浪漫子など一般には知られぬ人生も。巻頭の高橋鏡太郎にまず驚く。傍若無人の奇行が目立つ俳人で、無一文ながら酒場で客にねだり酔いしれた。肺結核で入った病院は3食付きの天国で、追い出されぬため、重病患者の血痰を飲んで検査を受けた。「虹のせて雲海かしぐ寂けさよ」は鏡太郎の句。

◆『阿久悠と松本隆』中川右介・著(朝日新書/税別900円)

 1970年代後半から80年代初頭、日本の歌謡曲の黄金時代をつくった2人の作詞家が『阿久悠と松本隆』だ。中川右介(ゆうすけ)は、2人がいかに時代の変化を読み、時代をつくっていったかを分析する。各年ごとにそれぞれの活動を追い、いかに戦略的に曲づくりがなされたかを分析するあたり、著者の手腕が光る。「セーター」(阿久「北の宿から」)と「ハンカチーフ」(松本「木綿のハンカチーフ」)といった対比も興味深い。忘年会のカラオケは、阿久悠vs.松本隆しばりという対決も面白いかも。

-----

岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』など

<サンデー毎日 2017年12月31日号より>

あわせて読みたい

注目の特集