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人生の転換点となる出会いを見逃さない感受性を磨く
◆『中高年シングルが日本を動かす』三浦展・著(朝日新書/税別760円)
総務省発表の「家計調査」をはじめ、さまざまな統計資料を参照・解析し、現代日本の姿を浮かび上がらせる本書。著者の三浦展さんは“マクロな人間ウオッチャー”だ。その自在で緻密な視線を追った。
「もともと人間に対する興味があったから社会学を選んだんです。でなければ『損得が原則』の経済学をやってればいいんで。『人間は損なことはしない』なんて、そんなはずありませんよね。経済学って、ホントひどい学問ですよ(笑)」
その興味ゆえ、学生時代はなるべく数字のデータに頼らずにものを言いたいと思っていた。
「その後、マーケティング雑誌に関わって普通と違うデータの使い方を見つけたんです。本来はデータにならないことをデータで裏付けるとか、データから人間的なものを読み解くとか。それが今の姿勢の原点になっているんだと思います」
本書でも、れんこんの消費の伸びに注目しているのがユニークだ。
「自分でもれんこん料理を作って、手間がかかるのを知っているから不思議だった。でも煮物にれんこんが入ると“インスタ映え”するのも実感としてわかる。あの穴の立体感がいい(笑)。だから僕は、リアリティーを持って書けるんです」
本書からは、無味乾燥な数字やグラフから生身の人間の暮らしようを読み解く楽しさも伝わる。一方で統計を表面的に眺め、誤った結論を導く危うさも指摘する。
「今のメディアはみんな『面白さの魔力』に憑(と)りつかれている。とくにネットの記事は閲覧数を上げようとして、間違いとは言わないまでも面白い方へ誇張しがちです。だいたい面白くしないと、一般の人は統計なんて見ませんからね」
総務省統計局は国勢調査などの回答率を上げるために、統計の有用性をアピールする。
「その結果、高年収の女性の未婚率を簡単に計算できるようなデータを出しちゃう。でもそれはサンプリングされたデータからの推計値だから、年収の推計×未婚率の推計で、どんどん誤差が大きくなる。統計局に問い合わせたら、何割の誤差とは言わなかったけど『気をつけてください』ですって」
誤差も含む統計だが、三浦さんは、注意深く実相をふるいにかける。その結果、日常的価値観を重視し、バブル期のような“虚”より“実”を取る消費傾向が見えてくる。
「これは悪いことじゃない。僕はバブル時代が大嫌いです。“バベルの塔”的人間の愚かさを感じて、暗澹(あんたん)とした気持ちになる。今の方がよっぽどいいですよ」
あの時代のような極端に走らず、バランスの取れた消費で心の豊かさを求める。中高年シングルの消費動向は、そのサンプルになり得ると三浦さんは言う。
「総括で書いた中高年カップルの、シンプルでミニマムな生き方との出会いが、僕の世界観をガラリと変えた。そういう転換点となる誰かの話や行動と出会えれば、あえて発想の変え方を探さなくても生き方は変わる。いろいろな人とつき合って、その機会を見逃さない感受性を磨く。それが大切だと思います」(構成・小出和明)
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三浦展(みうら・あつし)
1958年、新潟県生まれ。マーケティング・アナリスト。一橋大社会学部卒業後、パルコ、三菱総合研究所を経て99年、カルチャースタディーズ研究所設立。『下流社会』『第四の消費』など著書多数
<サンデー毎日 2017年12月31日号より>