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我らが少女A

2017年8月1日から高村薫さんによる新連載「我らが少女A」が始まりました。合田雄一郎刑事シリーズ最新作です。東京郊外で起きた殺人事件。過去と現在が交錯し、土地と人間が溶け合う中で、現代が浮かび上がります。

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我らが少女A

/138 第4章 18=高村薫 多田和博・挿画監修

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 そうして足元に打ち寄せたさざ波は、思いのほか不穏な心地を運んできて、合田を一日じゅう余計な物思いに押しやり続ける。自分の勤務先を、浅井はいったいどうやって調べた? 氏名も所属も保秘になっている警察官個人の勤務先を知るには、基本的に内部の人間に尋ねる以外にないが、誰に尋ねた?

 実際には、十二年前の事件の数多(あまた)の関係者の一人だった多磨駅の駅員の眼(め)があり、たまたま駅を利用する元捜査員たちがおり、さらにはスマホのアラームが故障して浅井忍が勤め先をクビになったのに続いて、その父浅井隆夫が偶然、駅で昔の捜査責任者の姿を見かけてそれを息子の忍に話し、元捜査責任者が警大にいることを知った忍の脳内で何かのスパークが生じたのだが、合田をふくめて誰もそんなからくりは知らない。

 それでも、あれこれ執拗(しつよう)に考え続けた結果、合田はいつぞや早朝に駅前で後ろ姿を見かけた男は、やはり浅井隆夫だったのではないかと考えるに至る。仮に浅井隆夫なら、近辺に勤め先があって毎日多磨駅を利用している以上、どこかで自分に気づいており、それを息子の忍に話していてもおかしくはない。否、浅井隆夫がほんとうにこの近辺にいるのであれば、霊園にしろ石材店にしろ勤め先を調べるのは簡単だが、そこでもま…

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