メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

【お知らせ】現在システム障害のため一部の機能・サービスがご利用になれません
健康狂想曲

第4章・メンタルヘルス/3 不調に備える自己改革

トッパン・フォームズ社の「セルフメンタルヘルス研修」で、インストラクターの土田悦子さん(右端)の指示で、ストレッチに取り組む新人社員ら=東京都港区で

 ●新人時代から防衛

     「これからは快眠を追求します」。恥ずかしそうに宣言する男性新人社員に同期入社から拍手が起こった。ビジネス向け帳票製作印刷大手の「トッパン・フォームズ」社が今月初め、入社8カ月の新人社員73人を集めて東京都港区の本社で開いた「セルフメンタルヘルス研修」だ。ストレスの仕組み、うつ病の病像を学び、運動、睡眠、食生活の重要性をインストラクターが強調。メンタル不調を起こしやすい考え方のクセを自己分析し、明日からできることを各自が宣言し、同期が拍手で応援した。

     ネガティブ思考があると自己分析した男性社員(23)は「営業の仕事を始めて戸惑いもある。休息が大切だと気づかされた」と話す。土田悦子インストラクターは「早い時期にメンタル不調を理解し、回避する手立てを知れば結果は違う」と指摘する。土田さんを派遣した「中央労働災害防止協会」の三觜(みつはし)明研修支援センター所長は「若者は自分の身を守ることに敏感で一生懸命聞く人も多い」という。

     トッパン・フォームズ社は経済産業省の「健康経営銘柄」に2016、17年度に選ばれた。重点の一つに「メンタルヘルス対策」を掲げ、新人研修はその一環だ。一般社員にも自己分析などの研修を実施する。管理職は少人数グループで産業医の教育を受けた。メンタル対策を統括する寺上美智代執行役員は「メンタル不調で休職すると、戻すのは時間もかかるし難しい。未然防止こそが大事だ」と力説する。

     「ストレスを感じていたのは自分だけじゃなかった」。三井化学の研究職の男性(45)は今年10月の研修を振り返る。約1000人が働く研究拠点「袖ケ浦センター」(千葉県袖ケ浦市)では、自らストレスに気づき対処する「セルフケア」を14年から5年がかりで全員に実施中だ。年代別に分けた5人程度のグループで、ストレスを起こす要因や「こだわりが強い」といった研究者の特性を学び、ストレス対処の事例研究も行う。男性は上司や部下との「コミュニケーションでストレスを感じる」と打ち明けた。他の参加者と悩みを共有し、アドバイスも受け安心したという。産業医の渡瀬真梨子医師は「(不調の)予備軍にアプローチするには全員のセルフケアが必要」と説明する。

     ●休職防ぐ早期介入

     早期、不断の予防でメンタル不調休職を未然に防ぐ企業もある。自動車部品大手「ボッシュ」(グループ合計約6200人)で営業責任者だった男性(55)は、部下がうつ病になり、相談電話を毎日1時間受け、仕事をカバーする中で自身も14年にうつ病になった。朝の身支度が遅いと家族に指摘されたのを機に受診、医師から休むよう指示された。最長40日は有給となる「多目的休暇」(70日)や有給休暇を使って休み始めた。

     その半年前、会社と連携する健康保険組合の臨床心理士が部下の件で男性をカウンセリングし、うつの病像や管理職としての対処法を伝えていた。このため男性は自分の病気に気づき、すぐに休み、5カ月弱で復帰した。早い対応で早期に戻れた好例という。

     ボッシュは休職で本人のキャリアに影響が出ないよう、多目的休暇や有給休暇を使い職場復帰を目指す。また会社の委託を受けた健保組合の臨床心理士らが月1~2回のメンタルヘルス個人相談を就業時間内に実施。各事業所には健保から保健師も出向、いつでも心身の相談にのる。相談は最近では年百数十件になり、不調防止に役立っているという。男性の場合、復帰約1カ月前から1年後まで臨床心理士が面接、再発防止に努めた。男性は「心配させないよう会社が支えてくれた」と話す。

     ●成長のための機会

     一方、第一生命はメンタル対策を予防重視に変え、不調者を減らすことに成功した。事務職約1万4000人のうち、メンタル不調の休業者数と「試し出勤」者数は13年度で計平均143人だったが16年度に平均98人と3分の2に減った。原因が除かれないまま休み、体調が十分回復せずに出勤に臨む人が多かったのを改革。早期介入して原因を見つけ、不調者自ら乗り越えるよう促す手法を導入した。

     20代の男性は生真面目で帰宅後も勉強や仕事の準備に追われていた。緊張感が抜けず気分が落ち込み、ミスが目立つようになる。部下の様子がおかしければすぐ保健師に伝えるよう研修を受けていた上司が連絡した。評価が下がることを恐れる男性を説得して精神科医の産業医・小林靖医師との面談を促した。小林医師は10回以上会って男性の心の変化を振り返り、焦る気持ちとの付き合い方を体得することが課題だと確認。心療内科で臨床心理士のカウンセリングを受けさせた。

     男性は「こうありたい」という気持ちに「振り回されていた」と気づき、上司にも弱音を吐けるようになった。約3カ月で通常勤務に戻ったという。小林医師は「似たストレスが来ても乗り越えられるよう成長を促した。改善の道案内をしている」と話す。「成長促進型」と呼ばれるアプローチだ。

     チーム責任者になった30代の男性がうつになった例では、本人の不安を取り除くため、どう休み、復帰するかのロードマップを示した。回復を待つ休養期間▽定期的な外出や軽い運動をする活動回復期間▽通勤訓練などに取り組む職場復帰準備期間--を経て復帰できることを示すと、男性は安心して4カ月休んだ。カウンセリングで「仕事を抱え込む」問題を自覚してもらい、頭痛が表れたら不調のサインだと確認した。男性は仕事を分担し始め、不調を避けて仕事を続けている。

     このアプローチを提唱する慶応大医学部精神・神経科の白波瀬丈一郎特任准教授は「単に休ませ保護するだけでなく、働く人が抱えるストレスやつまずきを、成長のための機会として役立てる。発想の転換が必要だ」と指摘する。【斎藤義彦】=つづく


    成長促進型アプローチ

     メンタル不調者自らがストレスや不調に適切に対処できるよう促す支援方法。不調を利用者と振り返り、不調をもたらした原因を共有。医療やカウンセリングを利用して乗り越える方法を自ら見つけ出してもらう。早期に行えば、職場復帰も早くなるという。

    毎日新聞のアカウント

    話題の記事

    アクセスランキング

    毎時01分更新

    1. 日産会長逮捕 ゴーン神話「数字の見栄え良くしただけ」
    2. 日産 ゴーン会長を解任へ 「会社資金を私的に流用」
    3. 日産会長逮捕 再建神話、地に落ち 社員に衝撃と動揺
    4. 暴行容疑 元レスラー長与千種さんの髪つかむ 男を逮捕
    5. 高校野球 練習試合で頭に死球、熊本西高の生徒が死亡

    編集部のオススメ記事

    のマークについて

    毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです