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岡崎 武志・評『「新しき村」の百年』『牧野富太郎 植物博士の人生図鑑』ほか

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今週の新刊

◆『「新しき村」の百年 〈愚者の園〉の真実』前田速夫・著(新潮新書/税別760円)

 1918年開村というから1世紀前、宮崎県木城村に、武者小路実篤が同志20人と入植したのが「新しき村」。のちダムに沈み、主力は現在、埼玉県毛呂山町で「人類共生」の精神を守り暮らす。

 『「新しき村」の百年』は、世界にも類例のない「ユートピア」の実践について調査、報告する。著者の前田速夫も「新しき村」の村外会員。知識人の冷笑、相次ぐ脱退、ダム湖へ没するなど、村はいくつもの試練を乗りこえた。

 単なる「お目出たき人」たちの道楽ではない。平等、反差別を掲げ、盲人、ハンセン病患者、被差別の人たちを受け入れたことを、著者は高く評価する。ピークは81年。その後、高齢化が進む現状も知らされる。困難な状況は、今後の日本・世界がたどるモデルケースだ。

 村の存続案を提言しつつ、本当にユートピアの賞味期限は切れたのか、と著者は問う。「この道より 我を生かす道なし この道を歩く」の言葉は今も生きている。

◆『牧野富太郎 植物博士の人生図鑑』コロナ・ブックス編集部(平凡社コロナ・ブックス/税別1600円)

 「この道より我を生かす道なし」と植物に94年の生涯を捧(ささ)げた人物がいる。コロナ・ブックス編集部『牧野富太郎 植物博士の人生図鑑』は、美しい写真と図版で飾る自叙伝。

 江戸末期の生まれ。幼くして父母を失い、青春期には自由民権運動に身を投じた。22歳で上京、東京帝大植物学教室で、植物研究に没頭する。野行き山行き、草に寝転がり、徹頭徹尾、実地の調査に専心し、膨大な植物採集標本と、精彩なスケッチを残した。

 その成果が『牧野日本植物図鑑』に結実する。78歳の集大成だった。牧野が標本を挟んだ5000枚の新聞各種が、それ自体資料として貴重というから、ただごとではない。家財を整理し、貧窮にあってなお植物を愛し続けた。

 「私は植物の愛人としてこの世に生まれ来たように感じます。(中略)私は飯よりも女よりも好きなものは植物」と博士は言う。

 植物に殉じ、植物で自己を見いだした人生だった。

◆『100年のジャズを聴く』後藤雅洋・村井康司・柳樂光隆/著(シンコーミュージック・エンタテイメント/税別2000円)

 『100年のジャズを聴く』は、後藤雅洋・村井康司・柳樂光隆と世代は異なれど、いずれも猛者の評論家3人が、ジャズの過去、現在、未来について討論する。モンクは、ジャズがわかっているかどうかを試すリトマス試験紙。ヒップホップ以前と以後でジャズはどう変わったか。「新しいジャズは面白い」(後藤)。今は「低い温度感の音楽が求められている」(柳樂)。マイルスは「人というより神社になった」(村井)など、話題は多彩で、どこからでもジャズの核心につながっていく。

◆『はじめての暗渠散歩』本田創・高山英男・吉村生・三土たつお/著(ちくま文庫/税別760円)

 曲がりくねった路地や、遊歩道。かつて、そこは川だった可能性あり。本田創・高山英男・吉村生・三土たつお『はじめての暗渠(あんきょ)散歩』は、街を探検しながら、幻の川を追う。「何気なく見過ごしていた風景の中に、失われた川の痕跡が残されていることに気づく」喜び。そして「水のネットワークは、地名や地形の失われた関連性(繋がり)を呼び戻す」ことにも。新宿御苑トンネル四谷側出口には、新宿御苑に隣接して水路の痕跡(残された秘境空間)があるという。たしかにちょっと興奮。

◆『源氏物語』柳井滋・著(岩波文庫/税別1320円)

 世界にも誇れるわが国の長編小説が『源氏物語』。なかなか原文には手が出ない。そこで岩波文庫は原文で読めることに徹し、片ページずつ、本文と詳しい注を見開きで並べた(柳井滋他校注)。全9冊のうち、本巻「二」は紅葉賀から明石の7帖を収める。「政敵の娘との密会が発覚し、須磨・明石へと流れていく光源氏」の姿と、きらびやかな女君たちの恋愛模様を描く。最新研究による訳注は、巧みに現代語訳を盛り込み、読者の理解を助ける。年末、新年に『源氏物語』を。いいではないか。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』など

<サンデー毎日 2018年1月7・14日新春合併号より>

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