田中洋之 毎日新聞編集委員
中東のサウジアラビアで今年6月をめどに女性の自動車運転が認められることになりました。車を運転する権利を長年求めてきた女性たちは、一様に喜んでいます。
サウジは厳格なイスラム教国で、「女性は家事に専念すべきだ」という保守的な考えがあり、女性が自動車の運転免許を取得することを宗教令で禁じてきました。女性の運転を認めない国は世界でサウジだけでした。宗教界には、女性が車で外出するようになれば男女関係の乱れにつながる、との意見もあるそうです。
これに対し、「女性にも車の運転を認めてほしい」との声が高まるようになりました。政府に抗議しようとゲリラ的に車を運転し、その様子をインターネットに投稿したところ、逮捕された女性もいます。国際人権団体からは「運転禁止は女性への差別」と批判されてきました。
こうしたなか、サウジのサルマン国王は昨年9月、一転して女性の運転を容認すると発表しました。サウジでは、ムハンマド皇太子が石油産業に依存する経済からの脱却をめざし、さまざまな改革に取り組んでいます。今回の決定もその一環で、車の運転を認めることで女性の社会進出と労働参加を促し、経済の活性化につなげる狙いがあります。
トヨタや日産など世界の自動車メーカーも歓迎しています。人口約3200万人のサウジで、女性が運転を始めるようになれば,それだけ車の需要が増えるため、新たな巨大市場になるとの期待があるからです。
歴史的と評価される女性の運転解禁ですが、サウジの女性は自由な服装が許されず、旅行や就業などには男性親族(夫や父親)の許可が必要で、ほかにもいろんな制約を受けています。女性の権利と社会的地位を向上させる動きは、ようやく始まったばかりといえそうです。
通算8年半にわたりモスクワ特派員をつとめ、ユーラシア大陸の各地を取材した。ロシアが生んだキャラクター「チェブラーシカ」をこよなく愛する。