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今どきの歴史

三角縁神獣鏡、製作地論争 画期的「国産説」の登場

湯迫車塚古墳(岡山市)出土の三角縁神獣鏡の鋸歯文。3面とも型が違う鏡なのに、砥石による仕上げ加工痕が酷似している=鈴木勉氏提供

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 三角縁神獣鏡という、古代史の世界で特に目立ってきた鏡がある。鏡の縁の断面が三角形で、神や神獣の図柄をもつ。やっかいな鏡ともいえ、製作地が中国(魏)か日本国内かをめぐり、100年も議論になっている。

     魏鏡説では、倭(わ)国(邪馬台国はその都)の女王卑弥呼の鏡とも呼ばれる。魏志倭人伝によれば、3世紀、卑弥呼は魏に使者を送り、贈り物をもらった。そのリストに「銅鏡百枚」とあり、魏の年号入りの品も含むこの鏡を指すと考えるのだ。

     近畿地方が分布の中心なので邪馬台国畿内説の論拠にもなるが、重大な弱点がある。100枚どころか500枚以上も見つかっている上、肝心の中国から出てこないのだ。「倭の好む鏡を魏が特別につくって贈った。だから中国にはない」とする「特鋳説」があるが、考古学の常道にないアクロバット的学説だろう。

     一方の国産説も決め手に欠けたが、1年前、画期的な新説が現れた。昨年この欄で紹介した「国宝・金印論争」にも登場願った鈴木勉・工芸文化研究所所長の著書「三角縁神獣鏡・同笵(どうはん)(型)鏡論の向こうに」(雄山閣)である。鈴木氏は金工や金石学が専門。物の形や文様の変化を追う考古学とは違い、実験が裏付ける製作技術の観点から製作地に迫った。

     着目したのは、鋳造後の仕上げ作業。三角縁神獣鏡の文様には、三角形が連続する「鋸歯文(きょしもん)」がある。鋸歯文を拡大画像で比較すると、ヤスリや砥石(といし)で磨かれるなど、種々の異なる加工痕が残っていた。加工痕の違いは工房や工人、工具の違いを示すものという。

     そこで、黒塚古墳(奈良県天理市・33面出土)など、三角縁神獣鏡が出土した10以上の古墳を対象に加工痕を比較した。

     結果は簡明。仕上げ加工痕は出土古墳ごとに見事にまとまっていた。

     三角縁神獣鏡では同じ型の鏡が複数存在する。同笵(型)鏡と言い、別々の古墳からも見つかるが、同型同士でも加工痕は古墳によってさまざまだ。一方、出土古墳が同じなら、異なる型の鏡にも同じ仕上げが施されている。つまり加工痕は鏡の型ではなく、出土古墳に規定されているのだ。

     鋳造の最終工程で施される仕上げのまとまり具合から導かれる事実は明らかだ。鏡の製作地は、日本列島内の出土古墳近くということになる。

     その上で鈴木氏は見つかる鏡の少なさなどから、工人が各地の出土古墳近くに定住しているのではなく、大和地域に本拠を置く複数の移動型の工人集団が各地の依頼で現地に出向いて製作する「出吹(でぶ)き」を想定した。

     加工痕の画像という一目瞭然の新手法で国産説を提起した鈴木氏は「(鏡の形や図像、銘文をたどる)系譜論では、製作地問題は絶対に解決しない」と、製作技術に目を向けたがらない考古学の実情に警鐘を鳴らす。

       ■  ■

     対する考古学界の反応がさびしい。1年たっても、村瀬陸・奈良市埋蔵文化財調査センター技術員の書評(「考古学研究253」所収)が目につくくらいだ。

     村瀬氏は「実験あっての結果と、非常にわかりやすい分析方法。研究はネクストステージ(新段階)に入った。(本が)全て正しければ国産になる」と評価する。ただ「加工痕の古墳ごとのまとまりも、製作の時期差が加工痕の違いになった可能性がある」などと、鈴木説にはまだ課題があると考える。一方で「鏡研究者側が疑問点をどんどん出さないと」と、議論が起こりにくい学界の閉鎖体質も指摘した。

     三角縁神獣鏡が国産なら、影響は甚大。考古学では従来、中国渡来の貴重な鏡が列島の中央から各地の首長に下賜・配布されたと考える中央集権的な王権論が主流だ。その鏡が国産で、しかも工人集団が各地に出向いて製作していたとなれば、半世紀以上に及ぶそんな定説的国家観など消し飛んでしまう。

     27歳の若手研究者、村瀬氏に発言を任せておけばいいという問題ではないと思う。【伊藤和史】=毎月1回掲載します

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