通常国会がきょうから始まる。
安倍晋三首相ら政権与党は新年度予算案の成立を急ぐとともに、時間外労働の上限規制などを盛り込んだ「働き方改革」の関連法案が主要な議題だと位置づけている。
同時に、首相や自民党執行部が早ければ今秋の国会発議を目指していると思われる憲法改正も、与野党で議論が具体化する見通しだ。
日本の将来を方向付ける可能性がある重要な国会である。
ただし、そんな中で忘れがちになっている宿題がある。
深刻な少子高齢化問題である。
昨年、私たちが「危機の社会保障」と題して社説シリーズで指摘してきたように、日本の人口の中で最も多い「団塊の世代」がすべて75歳以上になる2025年は目前だ。一方で少子化も進み、社会保障制度を支える現役世代側は細る一方だ。
文字通り「待ったなし」のテーマである。
与野党で協議する場を
確かに安倍首相は昨秋の衆院選で少子高齢化を北朝鮮問題と並んで「国難」と訴えた。だが新年度予算案を見ると長期的な視野に立った対策を示しているようには見えない。
一般会計総額は6年連続で過去最大を更新して97兆円余。国と地方の借金残高は1100兆円を超す。
政府は少子高齢化対策として高等教育の無償化や介護職員の待遇改善を中心とした「2兆円パッケージ」を決定し、今後集中して予算配分するという。方向性は否定しないが、付け焼き刃の印象は拭えない。
当然、予算案をめぐる国会審議でも長期的な視点が不可欠となる。
例えば、「人生100年時代」を迎え、「病気を治す」から「生活を支える」医療に転換できないか。
あるいは介護が必要なのにサービスを受けられない「介護難民」が間もなく首都圏を中心にあふれてしまう事態に、どう対処するのか。
年金も含め、給付の抑制だけでは解決できず、国民の負担増が避けられないのは承知のはずなのに、今の政権は「安倍1強」の安定した政治基盤を持っていながら人気薄の政策には手をつけたがらない。
危機的状況を迎えているのは社会保障政策だけではない。
少子高齢化の先に待っているのは人口減少問題だ。今のままでは60年代には日本の人口は8000万人台に減るという。国の経済全体、自治体の運営、ひいては国造りそのものに及ぼす影響は計り知れない。
既に一部企業は深刻な人手不足に陥っている。だから「65歳定年」を見直すべきではないか。あるいは外国人労働者がきちんと働ける仕組みを考えるべきではないか……。これまで私たちが提起してきた通り、検討すべき対策はいくらでもある。
そこで提案がある。
人口減少問題に関し、特別委員会など国会に与野党協議の場を常設してはどうか。今年は衆院が解散され総選挙となる可能性は低そうだ。だからこそ与野党は対立を超え、腰を据えて長期課題に取り組む好機だとも考えるからだ。
首相の姿勢も問われる
もちろん、通常国会では北朝鮮の核・ミサイル問題をはじめ、外交や安全保障も大きな課題となる。増額を続ける防衛費のあり方を議論することは、専守防衛とは何か、つまり憲法9条改正の議論とも密接に関係してくるだろう。
「森友」「加計」両学園の問題も疑惑の核心は依然として解明されていない。一件落着とはいかない。
論点はこれほどあるにもかかわらず、与党は野党の質問時間を削ったり、首相の委員会出席を減らしたりしようとしている。数で押し切ろうとする議論軽視の姿勢が一向に変わらないのは全く理解できない。
対する野党は、民進党と希望の党の統一会派構想が内部の反発で白紙に戻ったように、相変わらず内輪の混乱が続いている。野党各党は態勢を立て直し、まずは政府を厳しくチェックする姿を示すことだ。
そして、安倍政権が人口減少問題を先送りしようとするのなら、野党から具体策を提示して論戦を挑むべきだろう。
安倍首相も野党を敵視するだけでなく、国民にとっていい案であれば素直に評価して取り入れるべきである。改めて首相の器量が試されると言ってもいいだろう。
若い世代の未来を左右するテーマでもある。危機感を国民全体で共有して国会を見つめていきたい。