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小島ゆかり・評 『白磁海岸』=高樹のぶ子・著

 (小学館・1620円)

 人間はなんて悲しく、なんて愛(いと)しいのかと思う。この物語に登場する人びとはみな、危うい秘密を抱えながら、その秘密にみずから傷つきながら生きる、強くて脆(もろ)く、愚かでやさしく、あさはかでなつかしい人びとである。

 たとえば『マルセル』では絵画が、『オライオン飛行』では時計が、謎を解く鍵として物語を動かしていったが、今回は美しい白磁の皿。ミステリーとしてのおもしろさはもちろん、登場人物のそれぞれが代わる代わる主人公になり進行する、多角的な人間心理のドラマでもある。

 夜更けて空も街も静まると、闇を走る風に乗って、金沢港の長い堤防にぶつかる波の音が聞こえてくる。そんなはずはない、(中略)雅代は両耳に指を差しいれ、耳の穴に夜気(やき)を通した。すると波音はさらに大きく深くなった。(中略)おそろしい。雅代はその言葉を呪文(じゅもん)のようにつぶやく。おそろしいのは地響きのような波音ではなく、それによって自分の身体の底から湧き起こる熱いかたまりのほうだ。あの幻の波音…

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