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余録

「家へ入るには裏戸を押すだけでよかった。ロックもボルトもなかった」…

 「家へ入るには裏戸を押すだけでよかった。ロックもボルトもなかった」。幕末に長崎を訪れた英国人ホームズは早朝、町を散歩して住人が寝ている家に入り込んだという▲びっくりするのは、その家族が機嫌よく彼を迎え「家人と朝早くからふざけ合った」ということだ。渡辺京二(わたなべ・きょうじ)さんの「逝きし世の面影」からの孫引きだが、当時来日した外国人を驚かせたのは日本の庶民の開けっぴろげな生活であった▲以後の日本人は西欧の習慣にならったが、驚く外国人は今もいる。街の自動販売機に、金箱が道に並んでいてなぜ盗まれないのか不思議がられる話は有名だ。そして今度は情報ハイウエーの脇に置かれた580億円入りの金庫だった▲仮想通貨ネムの大量流出を招いた取引所大手コインチェックに、金融庁が業務改善命令を出した。外部ネットに接続したまま多額のネムを保管し、推奨された安全対策もとらなかったという。鍵のない金庫を公道に放置したも同然だ▲ネムを預けていた顧客26万人に対し、同社が自己資金で460億円の返金を約束したのも驚きだった。そんな潤沢な資金があるのなら、なぜ不正アクセス防止に必要な人材や設備をそろえられなかったか。話が何ともちぐはぐである▲ちぐはぐといえば、金融庁による登録審査中で、そこで安全対策が懸念された取引所がテレビCMで顧客を集めていたのもおかしい。聞けば聞くほど、投機の熱病に浮足立った行状がまたまた外国人を驚かせそうな「仮想通貨大国」である。

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