SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『藝人春秋2』『俺たちの「戦力外通告」』ほか

  • はてなブックマーク
  • メール
  • 印刷

今週の新刊

◆『藝人春秋2』水道橋博士・著(文藝春秋/上下各税別1600円)

 不思議な芸人である。共演者に「ハカセ」と呼ばれ、冷静に知識やコメントを発する。ビートたけしの弟子で、お笑いコンビ「浅草キッド」という出自を知らない人は、本当に「博士」と思うかも。

 紆余(うよ)曲折の長い芸歴の中で、水道橋博士が知る人たちの「業(ごう)」に迫ったノンフィクションコラムが『藝人春秋2』(上下巻)。「ハカセより愛をこめて」(上)「死ぬのは奴らだ」(下)という副題でも分かる如(ごと)く、映画通でもある。

 俎上(そじょう)に載るのはタモリ、みのもんた、寺門ジモン、劇団ひとりなど芸人仲間もいれば、猪瀬直樹、石原慎太郎、田原総一朗など「エライ人」枠にも容赦ない愛とムチが飛ぶ。老害とバッシングを受けた石原を「『威張りんぼうは面白い!』という視点で、あえて相手の懐に飛び込んで観察する」姿勢で受け止め、茶化(ちゃか)す。

 デーブ・スペクターを「今や沖縄の普天間よりも厄介な進駐軍」と評するなど、毒入り批評は師匠ゆずり。とにかく読ませます。

『俺たちの「戦力外通告」』高森勇旗・著(ウェッジ/税別1300円)

 プロ野球チームから不要の烙印(らくいん)を押され、泥にまみれる者たちがいる。『俺たちの「戦力外通告」』は、誇りを失った男たち25人の思いと、第二の人生にスポットライトを当てる。

 著者の高森勇旗も経験者だけあって(元・横浜ベイスターズ)、取材する筆が鋭く温かい。2003年に阪神をリーグ優勝に導いたエースの井川慶。06年には渡米、メジャー、マイナーと経験し帰国したが、速球は戻らず戦力外に。ダイエットで復活、独立リーグで投げる(本書執筆時)。

 阪神を引退後に公認会計士になった男が奥村武博だ。そこに流れた16年を、著者は「現在の爽やかな表情が奥村の顔に宿るまでにかかった歳月でもある」と書く。横浜の引退勧告を蹴り、広島でプレーを続けた石井琢朗。その心境やいかに?

 「悲劇なのか、面白くするかは、自分次第」(佐伯貴弘)という言葉は、明日また働く者たちすべてに対するエールになっている。

◆『夢の回想録』高田賢三・著(日本経済新聞出版社/税別1900円)

 世界のファッション界に名が鳴り響く高田賢三。今年79歳。意外や『夢の回想録』は初の自伝だ。兵庫県姫路市の待合を実家に、三味線の音、芸者の嬌声(きょうせい)に囲まれて育った。臆病で内気、宝塚に夢中な少年が、いかに世界へ羽ばたいていったか。5月革命のパリでデザイン画の売り込みに成功、デビューを飾る。「木綿の詩人」と評された。松田光弘、コシノジュンコは同期の仲間で、ほか山本耀司、三宅一生、山口小夜子と、華やかな交友と成功の裏に確執もあった。満載の秘話に興味津々。

◆『チャップリン自伝』中里京子・著(新潮文庫/税別990円)

 世界的ベストセラーとなった『チャップリン自伝』2巻本の後編は「栄光と波瀾の日々」で、中里京子の新訳による。「キッド」「街の灯」の成功で、一躍世界の映画人としてスターになったチャップリンは、アメリカで社交会入りし、名だたる著名人たちと交際をする。一方、2度の離婚、数々の女性遍歴も本書で明かされる。「独裁者」の対独参戦を促す勇気ある演説、そして戦後「赤狩り」でアメリカを追放され、スイス移住と、本人の手により、まさしく「波瀾」の人生が描かれている。

◆『日本問答』田中優子、松岡正剛・著(岩波新書/税別940円)

 江戸文化研究者の田中優子と、編集工学者の松岡正剛。思いがけない組み合わせの2人が、『日本問答』で思う存分、この国の文化を問答し合う。田中はいまだに日本社会が「うちの会社」「うちの旦那」と「内」を強く意識すると指摘。松岡は和服の「折りたたむ」機能に着目、問題は「広げる」方にあると視点を深化、拡大する。そのほか「面影の手法」「日本儒学と日本の身体」など、膨大な知識をバックに、日本という国家のあり方に斬り込んでいく。知的刺激を存分に受ける一冊である。

-----

岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』など

<サンデー毎日 2018年2月11日増大号より>

あわせて読みたい

注目の特集