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幸せの学び

<その188> 虹の国の音色=城島徹

ヒュー・マセケラさん=南アフリカ・ソウェトで2001年

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 アパルトヘイト(人種隔離)の時代に南アフリカから亡命して米国ジャズ界で活躍したトランペット奏者、ヒュー・マセケラさんが23日亡くなった。78歳だった。マンデラ元大統領と共闘した体験や文化再生への決意など、含蓄のある言葉が忘れられない。

 1939年4月、南ア生まれ。14歳でトランペットを手にし、61年に渡米。68年に「グレイジング・イン・ザ・グラス」が全米第1位のヒットを記録した。歌、作曲にも才能を発揮し、91年のアパルトヘイト撤廃後に帰国した。

 ジャズの枠を超えたサウンドはアフリカ音楽やR&Bが溶け合う。ディジー・ガレスピー、ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、マービン・ゲイ、スティービー・ワンダー、ポール・サイモン、フェラ・クティ……。共演者の顔ぶれも実に多彩だ。

 初めて会ったのは2001年夏。ヨハネスブルク郊外の自宅だった。日本公演がまだ実現しておらず、彼は「日本人は名誉白人として南アの白人政権との関係を続けた。我々の自由への闘いより経済を優先させたのだ。その話を私が再三したからかもね」と苦笑した。

 そして続けた。「今も南アにはペーパーフリーダム(書類上での自由)しかない。経済は白人が依然操り、弾圧者たちは既得権を容易に手放さない。好きな所に住め、警察にいじめられない自由は得たが、これから経済と芸術の面で南アを変えていく必要がある」

 「白人政府は我々を法律で人種別に分け、人間の大切な要素を奪おうとした。ダンスやドラム演奏など、南アには豊かな文化があったが、もう見られない。我々は一体、何者なのか。破壊されたのはそこなんだ。滅ぼされた文化を取り戻すことが緊急の課題だ」

 情熱と知性がほとばしる言葉はかつての同志たちにも向かった。「自由のために闘ってきた多くの指導者たちは権力を握った途端に変わってしまった。弾圧者の優雅な生活を見て誘惑されてしまう。我々人間はそういう弱さを持っている。これからが本当の闘いだ」

 2年後、ヨハネスブルク国際空港のCDショップで再会した。「演奏家としての私の人生は終わりに近づいている。これからは後進のために力を注ぐよ」。南アの若手ミュージシャンのCDを次々手にしていた。その時に見たのは若き世代にバトンを託す彼の覚悟だった。

 そして最後は2005年、東京でのライブ。彼を知るフォトジャーナリスト、吉田ルイ子さんと訪ねると、「長年の友情と寛容をありがとう」とCDにサインして差し出した。マンデラさんが「虹の国」と称した祖国に希望を与えた音色が今も心に響きわたる。【城島徹】

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